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 部屋を出ると、絨毯の敷かれた廊下が伸びていて、曲がり角に鎧を着た男が二人、左右に立っていた。二人はわたしに気付くと、寸分たがわぬタイミングで一歩下がり、深々と頭を下げてきた。 「ど どうも」  気おくれしながら二人の間を通り抜けると、男の一人がわたしについて歩いてきた。なんだか落ち着かない。ついて来なくていいと言おうと思ったが、さっきの彼女の反応が頭をよぎり、思い留まる。  回廊を少し歩くと、中庭が見えてきた。中央には噴水があり、それを囲むように設けられた花壇の花はよく手入れされていた。 「あら、早いのね」  花壇の花を何気なく眺めていると、わたしと同じように護衛を引き連れた女の人が声をかけてきた。さっき見た写真に写っていた女性だ。品が良く、美人でもあったが、何より高貴な雰囲気が身分の高さを物語っていた。  母親だとは聞かされたが、どう会話していいのか分からない。わたしが黙っていると、彼女は護衛が持っていた銀色の水差しを受け取り、花壇に水をかけ始めた。 「こうしていると、平和そのものなのにね」  戦争のことを言っているのだろう。わたしは話を合せるために軽くうなずいた。 「ごめんなさいね。あの人は一度決めたら、決着が付くまで引き下がらない。そういう人だから」  彼女は一度わたしの胸元のロケットに視線をやり、寂しげな笑顔を見せると、花壇に沿ってゆっくり歩きながら水をかけて回った。  一周したところで、護衛が無駄のない動きで彼女のそばに歩み寄って水差しを受け取り、また一歩下がった。
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