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「黄金の件、あれはささいなすれ違いだ。今後、両国にとって最も重要なのは、お互いに手を取り合い助け合う事だと、私は思う」
二つの国の王族が一堂に会する会食の場にて、我が王は堂々と言い放った。苦々しく思う者もいただろうが、誰も顔には出さない。政治とはこういうものなのかも知れない。わざわざ事を荒立てる必要もないわけだし。
「さて、巨人によってすっかり疲弊してしまった両国だが、二人が結ばれるとなれば、国民にとってこれ以上の慶事はない」
「ええ。我が紅葉の国としても、望むところであります」
微妙な空気が漂う会食の中、わたしと王子の結婚を前提とした話が進んでいく。わたしの目の前に座る王子は黙々と料理を口にしている。後で話すと言っていたが、どうするつもりなんだろう。
やがて、酒が入ってきた王たちの隙を見て、王子が席を立ってわたしに耳打ちした。
「外に行こう」
二人でそっとバルコニーに出ると、夜空には満月が輝いていた。彼は部屋に背を向けたまま、眼鏡を外す。
「久しぶり、紗月」
「……そうだね」
見知った横顔が月明かりに照らされている。それはほかでもない、わたしの唯一の親友、なずなだった。
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