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そうか、これは夢なんだ。明晰夢ってやつに違いない。そう納得したのとほぼ同時に、男が口を開いた。
「さすが、状況の飲み込みがお早い」
何を言われたのか分からず男の顔を見つめていると、彼は切れ長の目を細めてニコリとほほ笑んだ。
「……えーと、執事さんでいいの?」
「はい、今回は。正確に呼ぶならば、従者でございますが」
「今回?」
「私は姫君のお世話を担当させていただいております、セバスチャンでございます」
彼は大仰な動作で右手を上げてから下ろし、深々と頭を下げた。
彼は夢の登場人物にしては異質だった。何かこの場に似つかわしくない雰囲気を持っていたのだ。何より、イケメンには違いないが、どう見てもアジア系で、セバスチャンっていう顔ではない。
「御用がありましたら、なんなりとお申し付けください」
「じゃあ、質問に答えて。これって、夢ってことでいいんだよね?」
彼は、ニコリとほほ笑むと、右手の指をパチンと鳴らした。どこからともなく無数の鳩が飛び出してきて、窓から外へと逃げて行った。
「夢か現実か、それが問題だ」
芝居がかったセリフとポーズに、場が白けるのが目に見えるようだった。
「……ふざけてる? 答えになってないんですけど」
「あなたは、どう思われますか?」
彼は、わたしの目を穴が空きそうなくらい見つめると、また、ニコリとほほ笑んだ。
「夢じゃなかったら、よっぽど手の込んだ誘拐に巻き込まれたか。ていうか、質問を質問で返さないでよ」
彼は笑顔のままわたしの前を横切ると、鏡の隣にある大きな書棚の扉を開けた。中からこれまた豪華な写真立てを取り出して、わたしに差し出してきた。
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