(2)

4/4
前へ
/54ページ
次へ
 ロケットを開けると、中には王族と思われる若い男の人の写真が入っていた。イケメン好きのなずなが食いつきそうな、整った顔立ちだった。 「あなたは婚約されております」  予想外の言葉に一瞬どきっとする。 「しかし、国と国との醜い利権争いの末、麗しき二人の仲は引き裂かれようとしている。……さぞおつらいことでしょう。嘆かわしいことです」  彼はどこぞから取り出したハンカチで目を拭いている。芝居がかった彼の挙動にうんざりしながら、わたしはもう一度ロケットの写真を見た。好き、嫌いとかではなく、何かが心にひっかかった。 「……状況は理解していただけましたね? 今回の課題は、彼ともう一度会うこと。それができなければ、あなたは永遠に夢の中というわけです」 「えっ?」  顔を上げると、彼の姿は煙のように消えていた。  広い室内を見回してもどこにも姿はない。部屋にはアロマの香りと、早口でまくし立てた彼の声の余韻だけが残っていた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加