8人が本棚に入れています
本棚に追加
ロケットを開けると、中には王族と思われる若い男の人の写真が入っていた。イケメン好きのなずなが食いつきそうな、整った顔立ちだった。
「あなたは婚約されております」
予想外の言葉に一瞬どきっとする。
「しかし、国と国との醜い利権争いの末、麗しき二人の仲は引き裂かれようとしている。……さぞおつらいことでしょう。嘆かわしいことです」
彼はどこぞから取り出したハンカチで目を拭いている。芝居がかった彼の挙動にうんざりしながら、わたしはもう一度ロケットの写真を見た。好き、嫌いとかではなく、何かが心にひっかかった。
「……状況は理解していただけましたね? 今回の課題は、彼ともう一度会うこと。それができなければ、あなたは永遠に夢の中というわけです」
「えっ?」
顔を上げると、彼の姿は煙のように消えていた。
広い室内を見回してもどこにも姿はない。部屋にはアロマの香りと、早口でまくし立てた彼の声の余韻だけが残っていた。
最初のコメントを投稿しよう!