酔芙蓉

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 その時鮮やかな色が視界に入ったのだった。  背比べするような建物の間に3メートルほどの高さの木があり、薄緑の葉の間にそれはあった。  花である。美世の手の平ほどの花であった。  よく見ると赤い花だけでなく、薄桃色や白い花もあった。 「芙蓉、これは芙蓉だ」という言葉が口から自然と出た。  芙蓉に思えた花をもっと良くみようと、植え込みにおおわれた家に近づくために歩道から外れた路地に入り込んでも、根本は塀に隠れて見えない。  白い花と赤い花が交配して、グラデーションをつけるのだろうか。  白から、淡いピンク、そして鮮やかな緋色にちかいピンク、と我こそはと名乗るように、とあでやかにフリルを広げている。  他所の芙蓉から虫が花粉を運ぶのか、それとも、と塀の下部を凝視する。  白い花の根と赤い花の根が根付き、二本の木はからまりながら成長し、まるで交接するように花を咲かせるのだろうか?
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