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1.クラブ アストロ
エディはステージが終わると、いつもの様に仲間と『アストロ』に来ていた。 今日のライブも派手に暴れたので、体の芯がだるい。
季節はもう秋になろうとしていた。
リーダーのテリーや、ドラムのヨージみたいにウィスキーを飲んでひと息つければいいが、自分はまだ飲めない。コーラで我慢する。
アストロはこの1968年にオープンしたばかりの、サイケデリックゴーゴークラブ、と呼ばれる店だ。 生バンドの音が響き渡り、一階の広いホールでは100人以上が踊れるようになっている。
二階は、それを見下ろすようにテーブル席があり、ちょっとくつろいで飲めるようになっていた。
エディ萩原は17歳。ロックバンド ペガサスのキーボード奏者だ。
明るい栗色に染めた髪を肩まで伸ばしている。マッシュルームカットというよりは、おかっぱに近いフェミニンなスタイルが似合う美少年だ。
目線ギリギリの前髪の下で、長い睫毛に縁取られた黒目がちの瞳が、潤んだように見える。
色白で、すっと通った鼻筋、唇は人形のように愛らしく、何も付けなくても赤味を帯びている。
体も165cmと小柄だ。誰もが「女の子みたい」と言った。
1960年代の後半にGS(ジーエス)=グループ・サウンズと呼ばれた熱狂的なバンドブームがあった時代のこと。
ペガサスは大阪出身のバンドで、1968年にデビューすると、すぐに人気爆発した、トップアイドルグループなのだった。
デビューに際し、全員国籍不明のニックネームが付けられていた。
有名作家が手掛けた楽曲は、すぐにヒットチャートに登り、話題となった。
当時まだ男性のファッションは保守的で、髪が長いだけで不良扱いされた。
そんな中、ペガサスのメンバーは全員茶髪で長い髪。フリルや刺繍に彩られた奇抜なコスチュームで、世間の度肝を抜いた。華麗なヴィジュアルが、注目の的だったのだ。
中でもエディ萩原の中性的なルックスが、ローティーンの少女達に絶大な人気を得ていた。
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