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「おい、視覚。お前、また覗き見してるのか」
視覚はその視線を、不機嫌そうに味覚の方へと向けた。
「なんだよ味覚。覗き見なんて人聞きの悪い事言うなよ。周りの景色を眺めて何が悪い」
「お前がそうやってると、いつまでも俺が味を堪能できないだろ。今は目の前のエビフライに集中しやがれ、このすけべ野郎!」
「もうちょっと待てよ。あんな美女、滅多にお目にかかれないんだから」
「やっぱり覗き見じゃねえか!」
両腕をぐるぐると廻してポカポカと叩き合う二人。いつもの光景だ。
「喧嘩するなよ。どっちでもいいじゃないか。どの方向を見ていたって、美味しい匂いはするんだから」
嗅覚はいつもだいたいゴロゴロしている。何故かって? 人間は嗅覚が鋭い動物ではないから。
「もう、いいから早く食べちゃってよ! エビフライのサクサクした食感を⋯⋯早く⋯⋯あぁん⋯⋯」
触覚は変態だ。常に気持ちいい感覚を求めている。特にエビフライの食感が好きらしい。こいつらは、いつもこんな調子である。
そう、私達は感覚の妖精。とある若い男が持つ感覚を、こうして日々処理しているのだ。ちなみに私は聴覚。好きな音は、猫の鳴き声。エアパッキンのプチプチを潰す音。重低音が効いた音楽。それと、エビフライを噛じる音。さぁ、早く目の前のエビフライを食べたまえ。
ところで、普段私達はこの五人で活動している。しかし、人間の感覚は六種類あるという。誰から聞いたかは忘れたが、とにかく六種類だそうだ。つまり、私達以外にもう一人の感覚が存在するはずなのだ。もう一人の感覚、それは一体──。
「おい、視覚! お前、急に黙るなよ! どうしたんだ?」
視覚は振り回していた腕をピタリと止めて、先程の美女を見つめていた。男の視線に気付いた美女は、こちらを向いて微笑んでいた。
どきゅん。
どきゅん。
どきゅん。
聴覚である私でさえ、聞いた事のない大きな鼓動が響く。
どきゅん!
どきゅん!
どきゅん!
どっきゅーん!!!
視覚が爆発した。辺りは、ピンク色の煙に覆われた。私達は驚いて、姿が見えなくなった視覚を探した。やがて煙の中から現れたのは、全身ピンク色となった視覚であった。
「恋だ⋯⋯恋してしまった⋯⋯」
視覚の目はハート型になっていた。そして私達は、ピンク色の視覚に猛烈な勢いで吸い寄せられた。
どっきゅーん!!!
またしても大きな爆発。そして現れたのは、五人が合体した究極の感覚妖精、『恋』であった。『恋』の妖精となった私達は、恋を実らせるべく戦うのだ!
そうして、内なる感覚の全てをピンク色に染めた男は、微笑む美女を口説き始めた。
「お姉さん、エビフライはお好きですか?」
~Fin~
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