ストーリー

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「ママー!あの人なんで真っ黒なの?? 怖いよー…」 向かい側から歩いてくる染野 白をその視界に捉えてからずっと凝視していた少女が母親に繋がれた手をギュッと握りしめて震え出したのは、(あき)とすれ違うその瞬間だった。 最悪のタイミングだった。 向かい側から歩いてくる親子を視界に捉えた時、白は肩を上げて、顔を下に逸らした。 地面を突っついていた鳩が一斉に飛び立ち、突然目の前に落ちて来た真っ白な糞に気を取られた。 親子とすれ違う瞬間、吹いた突風に深く被ったフードが飛ばされた。 抑える手為に上げた手は間に合わず、少女に顔を見られてしまった。その後再び隠した白の顔は恐らく母親にも見られている。 母親に手を離され、泣き叫ぶ少女に人々の視線が集まると、途端に白の周りは騒がしくなる。 母親の視線は少女と白の両方に配られている。 母親の視界がその二つから外れて、白は本気で不味いと思った。 直前まで少女の手を握っていた母親の両手は今、スマホでに向けられている。 「もしもし、警察…」 白はクルリと向きを変えて、何とか細く暗い古い路地に逃げ込んだ。 一秒でも動くのが遅ければ今頃、硬い地面に顔を押し付けられていた頃であろう。 「白先生、こちらです。」 帽子を深く被り、黒いマスクをつけた少女が、道の途中からモグラのように顔を出して手招きする。 白は手招きされた先に潜り込み、少女によって開けらたマンホールの蓋を締めた。 「先程から、サイレン音が騒がしいのですが、何かあったのですか?」 「ちょっとヘマをして、見られたのが原因。」 「え? つけられてませんよね?」 「それは、大丈夫。」 「本当に気をつけてくださいね。」 「ごめん。」 「謝らないでください。私たちにとって危険な地上で、白先生は私たちの為に頑張ってくださる。感謝しかありません。」 二人の声が少し鮮明になる。 汚水の流れが緩やかになったのだろう。 身体中に纏わりついた臭いの方が気になる程に、空気が少しマシになってきた。 もう、大分歩いて来た。 道すがら現れる柵を二人は器用に押し上げて、奥に奥にと進んだ。初めて来た、いや、何度も通っている人でなければ、道案内無しに同じ道を引き返すことなど、もう出来ない。 妙である。 二人が柵を押し上げてそこを潜るたびに、何度もネズミの集団を見かけてきた。 だが、今回の柵を潜り抜けると、一匹も見かけなくなった。 使われなくなった汚水道というよりも道のように思えるその場所に、二人は声のトーンを合わせて歩く。 「あー。 やっとここまで来た。早く帰ってコーヒーが飲みたい。」 「本当にやっとですね。お疲れ様です。 コーヒーは、私がお入れしますね。」 「いいねー。その前にみんなに届けないと。(あや)も手伝ってもらえる?」
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