ストーリー

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「白先生! 彩姉ちゃん! おかえりなさい!」 今は使われていない下水道を更に奥に進み、柵を2つ越えたあと、空気に地上の雑菌の臭いが混ざることは無い。 何処から来るのか綺麗に澄んだ水が流れて、その周りには野菜や穀物、更には花や木が育てられている。 屋根の無い囲いの中からは、良い匂いの煙が上がっている。 文明のはじまりの頃の素朴さと温もりが妙な安心感を感じさせる集落がそこにはあった。 二人に真っ先に気づき駆け寄る少年は少しの距離を走っただけなのに酷く咳き込んでいる。 「色、ちょうど良かった。」 白は駆け寄る少年を(シキ)と呼び、リュックから何かを取り出そうとするが、色は白の腹周りを探り、身軽な彩の身の周りも怪訝そうに探る。 色は彩の次に拾った子ども。彩と同じく微かに黒ずむ白目を除き、頭のテッペンからつま先まで見事な漆黒。 彩の瞳を見ても鮮やかな縁の眼鏡に気を取られて気づかなかったが、裸眼の色の瞳を見て気づいたこと。 黒子の黒目はまるで、漆黒のブラックパールのように美しい。 「今日は0人? どうして?」 色の問いに白が申し訳無さそうに俯き空の抱っこ紐を見つめると、彩が白の代わりに答える。 「薬屋の帰りに、ちょっとトラブルが…白先生、見られちゃったみたいなの。」 「え? 大丈夫なんですか?」 白は色を見つめてしっかりと答えた。 「騒ぎになる前に逃げたし、彩が上手く助けてくれたから大丈夫。」 「良かった…。白先生と彩姉ちゃんが無事帰れて本当に良かった。」 「ごめんね。」 「薬は買えたんですよね?」 「それは、大丈夫。」 「それだけで充分です。 本当にありがとうございます。それに今日、救えたかもしれない命があったとは限ら無いじゃないですか?」 続きそうな二人の会話を彩が遮る。 「そうですよ、白先生。それよりも早くお薬を。」 彩に促されて、白は鞄から取り出した薬とポータブル吸引機を色に渡した。 彩は例外。 この場所の空気が整う以前にここで育てられた子ども達は皆、酷い喘息かアレルギーを発症していて薬が欠かせない。 大抵のモノが自給自足出来るこの場所で手に入らない必需品。それはコーヒーとチョコ。そして、薬。 美味しそうな煙があがり、香ばしい香りが漂う。 薪を割って火を起こす。お手製の釜戸で秋にここで収穫した麦を使い、小さな子どもたちにオヤツを焼くのは、色の次に同時に別々の病院で拾った、生きた黒子。同時に拾ったからか、まるで姉妹の様に仲が良く、真っ直ぐなストレートの髪と、緩さかなカーブの髪。髪質こそ違うものの、仲良く同じ位置で二つに結んでいる。 真っ直ぐなストレートの髪の方が(なの)。 亡の漆黒の肌は爛れたように所々皮が剥がれ、黒みがかった赤色が滲んでいる。 「七、(こう)、はい。薬と吸引機。七には塗り薬もね。」 二人は揃って丁寧なお辞儀をした。 「ありがとうございます。 白先生もコーヒーとカラコンは買えましたか?」 そういう七に白は申し訳なさそうに言う。 「お陰様で。 辞めたいんだけどね…コーヒーもカラコンも…無駄遣いは減らさないとね。」 二人は白の瞳をうっとりと見つめた。 「カラコンはやめないでください! 白先生のカラコンは私たちの希望です。」 虹がそう言うと、そこにいた4人の子どもが同時に頷く。 黒子達の瞳が漆黒のブラックパールだとすると、白の瞳は純白のホワイトパール。純白に輝く眼鏡の中央に輝くあまりに美しい瞳の境目を見つけて、うっとりと眺めている。 「地上にはこんな技術があるのだから、いつか私たちも、地上の色に染まれる日が来るに違いないわ…」 虹の言葉に4人がうっとりするが、白だけは複雑な表情で俯いた。 「さあ、その日まで生きるためにもパンを焼いて。 私と白先生はみんなに薬を届けないと。 あの子たちは?」 「染め場」 彩の問いかけにみんなが指差すのは、一番奥にある真っ白なテントだった。 「また、あの場所にいるの?」 彩が言うと、虹はすかさず答えた。 「そうよ。みんな地上の色に染まりたいのよ。」 「またみんな、現実にいたかも分からないdyeに影響されてるの?馬鹿みたい。 白先生、あの子たちに薬を届けるのは後にしましょう。」 彩は怒っている。 「そんなわけには、いかないよ。」 白がそう言い、染め場を目指すと彩も渋々、白の後に続く。
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