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「ちょっとアンタたち、またこんなにして!」
染め場に入ると、床にはすり潰した草や花の残骸とエキスが散乱して、湯船は恐ろしい色に変わっている。
「こんな色になりたかったの?」
湯船を覗き込み、彩が呆れたように溜息を吐く。
「白先生、例のやつ、買って来てくれた?」
白は鞄から薬と吸引機と、それから白いチューブを取り出した。
「はい。白い水彩絵具。」
口を開けて、目を丸くする彩をよそに、湯船で騒ぐ5人組は、風呂の栓を抜きはじめた。
「彩姉、出ていけよ! 俺たち今からお湯を新しくして試すから!」
怒り心頭の彩の肩に白は手を添えた。
「あの記事を拾ってあの子たちに渡したのは彩でしょ?」
立札に書かれた〝風呂場の文字に二本線が引かれて、その上に〝染め場〟と手書きされている。
そしてその隣には、ボロボロの紙?よく見ると新聞記事の切り抜きが貼られていた。
〝dye=染料
彼女が何故、領域の外の言葉を使い自らを表現したのかが謎なように、彼女が業界を引退した理由もまた永遠の謎である。
生まれながら純白の肌と髪、この世のものとは思えぬ美しき瞳持つ彼女は、自らを染める能力を持って生まれ出た。
彼女はその能力を使い、我が国を彩った。
彼女が使うのは水性の絵具。
そんなもので身体が染められるはずが無い。
だが、彼女がそれを湯船に少し混ぜるだけで、彼女の色は移り変わる。
彼女の人間離れしたその容姿とその技を見た人々は皆、彼女を様付けで呼び、彼女の信者となる。
信者達は口を揃える。
失踪していない。死んでもいない。天にお戻りになり今も私たちを導いてくださっている。と。」
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