0人が本棚に入れています
本棚に追加
夕方、コーヒーに湯を注ぎながら、チョコレートを一欠片頬張る彩の表情は笑顔だった。
「中毒性のあるモノを覚えるのは良くないな。
彩はコーヒーの味は覚え無い方が良い。
そのチョコを他の子ども達には覚えさせるのも良く無い。
この場所でカカオ豆の栽培ができるようになる迄は、ね。」
そう言うと白は彩が入れた弾きたてのコーヒーの匂いを吸い込み、しっかりと味わう。
「彩に発作が無いのは、1歳まで地上で育てたからか…
いや、それとも、やはり…」
「白先生、またその話ですか? 白先生からいくらそんな話を聞かされても母親が私を捨てたという事実は変わらない。私の心の中にいる母親は白先生一人。それは変わりませんよ。」
白が彩を拾った時、気づかなかったことがある。
拾い育てる子どもが一人増えるごとに、気づきは憶測から確信に変わる。
彩を拾った時に感じた人の温もりと、ふんわりと漂ったミルクと石鹸の香り…
(私は恐らく、あの時見つけた黒子が彩で無ければ、拾わなかった…)
そう考えると自分が酷く惨忍に思えて胸が締め付けられた。
「彩、明日また出発する。 今度は私一人で。」
「私もお供します。 その変わりにお願いが。 白先生と同じカラコンが欲しい。」
「それは…」
何か言いかけて、白はテントの外の人影に気づく。
「そこで盗み聴きしている君たち、染め場はお風呂場に戻したの? もうすぐチビたちのお風呂の時間だよ!」
白に声を掛けられて、出てきた顔は皆、真っ黒のままだった。
「それよりも白先生、街に出るなら、水彩絵具買って来てよ!
これ、油性絵具だったから、上手くいかなかった!」
白は手渡された絵具を確かめた。
「あっ…ごめん。」
そう言うとポケットに閉まった。
「白先生は本当に甘い。甘やかしです。 成功しなかったのは、絵具が油性だったからでは無いですよ。人間があんなモノで染められる訳が無い。
きっとdyeの正体はマジシャンですよ。
種がバレて引退したに違いありません。」
彩の顔に怒りが差し込み、白は言う。
「彩にとってはカラコンが希望なのと同じで、この子達には水彩絵具が希望。
彩にはカラコンを買ってあげるから…」
最初のコメントを投稿しよう!