花婿の船

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「なかなか来ないわね」  テシアはそう言うと、自分の体を抱きしめるように手を回した。サーリーはテシアの腕に手をかけた。 「寒い? もう帰る?」 「ううん、せっかくだからもう一(せき)、見て行こう」  口調はきっぱりしていたが、テシアの体は震えている。怖いのだろう。サーリーも怖かった。この夜が明けたら、二人は攻撃配置につくことになる。敵船が降下し始めたところを狙い、撃ち落とすのだ。  リガヤの裏切りが判明してから、二年の月日が経っていた。元老院は少年たちを取り戻そうと必死に試みたが、リガヤの強硬な態度がくつがえることはなく、昨年とうとう宣戦布告がなされた。そしてひと月前、ザイオンに向けて発射された軍艦の存在が確認された。  サーリーの両親は、最後まで攻撃に反対した。リガヤに息子を送った大勢の母親と父親が反対した。だが結局、資源でも技術力でも劣るザイオンには、この道しか残されていないのだという意見が全てを押し流した。  リガヤ人は、ザイオンの豊かな自然を欲しているのだという人がいる。資源に恵まれずとも、太陽の下で暮らすことのできる生活を妬んでいるのだと。サーリーにはよくわからなかった。風にもだえる草の中で、彼女は夜空を見上げた。なぜこんなことになったのだろう。私たち、もとは同じ世界に住んでいた人びとの子孫なのに。どうしてこんなにも離れてしまったんだろう。 「来た!」  テシアの言葉どおり、白い点が再び現れた。今度は山の稜線に近く、低い位置を飛んでいる。サーリーは飛んでいくリガヤの軍艦を見つめ、呼びかけた。  アンシエー、その中にいるの?  いるなら合図をして。 「……行っちゃったね」  白い点は、先程よりも早く山並みの向こうに姿を消した。サーリーは立ち上がった。 「さあ、行こう。みんなが待ってる」  テシアは船が去ったあとの空をまだ見ていたが、サーリーの声に呼びかけに応えて立ち上がった。二人の少女は制服のパンツを払うと、丘を下り始めた。
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