花婿の船

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 子どものころ、サーリーはその丘を『岩場』と呼んでいた。実際には、丈の高い草の合間から、親知らずのような岩がポツポツ生えているだけの普通の丘だったのだが。  それらの岩も、今ではずっと小さく見える。サーリーは丘の上に立ち、夜空を見上げた。 「サーリー、ちょっと、どこにいるの?」 「ここよ!」  手を振ってやると、すぐに親友のテシアが登ってきた。サーリーとお揃いの制服を着て、長い髪を一つにまとめている。二人は、手ごろな岩に並んで腰掛けた。 「見えた?」 「ううん、これから」  サーリーは右手にそびえる山の影を指した。 「計算では、あの辺りから出てきて……」指を天球に沿って動かす。「こう、ずっと横切っていく」 「どうして、すぐに降りてこないんだろう」 「さあね。ようすを見ているのかも」  それからしばらく、二人は黙って夜空を眺めた。カシオペア二世座を見ながら、サーリーは思い出していた。この地の星座は、彼女たちの先祖がかつて住んでいた世界の星座にちなんで名づけられているらしい。そう教えてくれたのは、アンシエーだった。 「あっ、あそこ!」  テシアが指さした。山の端から小さな白い点が現れたかと思うと、どんどん空を昇っていく。 「思ったより小さいのね……」  誰が聞いているわけでもないのに、テシアは声を潜めている。サーリーも小声で返した。 「今は、遠くにいるから。降りてきたら、たぶんきっと、大きい」  白い点は夜空を横切り、やがて地平線の向こうに消えていった。テシアはため息をつき、サーリーは腕時計を確認した。 「七分後に、別の軌道でもう一(せき)来るよ」 「それも見ていく?」 「うん」  いつの間にか立ち上がっていた二人は、再び岩に腰を降ろした。 「ねえ」  空を見上げながら、テシアがつぶやく。 「あの『船』の中にいるのは、あいつらだけだと思う? それとも……シドやアンシエーがいると思う?」  サーリーは返事をせず、黙って空を見ていた。
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