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五十年に一度の『出航』が決まると、十三歳から十八歳までの少年たちはこぞって体を鍛え始めた。
「だって、ザイオンの男が軟弱だとかリガヤの連中に思われたくないからさ!」
そのために日没までサッカーをしてきたという兄を、サーリーは呆れて眺めた。
「でもシド。リガヤでは全然別のスポーツが流行ってるかもしれないよ? クロケットとか、テコンドーとかさあ」
「何が流行りでも、とりあえずサッカーはするだろ!」
熱く主張する兄にため息をつき、サーリーはそっぽを向いた。
「何むくれてるんだよ、サーリー」
「だって、最近つまんない。あたしだけ仲間はずれにして」
「してないって……。そうだ、お前も岩場に来るか? 今晩、みんなで星を見るんだ」
シドは鷹揚に言い、ふて腐れる妹の髪をぐしゃぐしゃにかき回した。
「ちょっと、やめてよ!」
「怒るなって、サー。あと少ししたら、ぼくは『船』に乗る。それまでお前と仲良くしていたいんだよ」
両親の許可を得ると、二人は岩場に向けて出発した。夜の散歩にはしゃいでいたサーリーは、人家を抜けたあたりからしだいに黙りこくるようになった。
「怖いのか?」
「ううん」
必死で首を振って否定する。だが星あかりを頼りに進む道は、見慣れたはずの景色に不気味な影を添えていた。サーリーは兄にぴったり張りついて歩いた。
「いたぞ、みんな先に来てる!」
岩場の頂上にはすでに近所の悪ガキたちが勢ぞろいし、思い思いの姿勢で空を見上げていた。
「よお、シド」
「遅かったなー」
「あれ? 妹を連れてきたのか」
サーリーは慌てて兄から離れた。
「何よ、ダメなの?」
「まさか、そんなことないよ。星を見るのに人数制限なんて無いしね」
そう言ってくれたのは、少し離れたところに座っていたアンシエーだった。活発なシドが悪ガキ仲間のリーダーなら、落ち着いたアンシエーはその参謀役だ。
アンシエーの言葉に、少年たちは再び空を見上げた。シドがみんなの思いを代弁するように言った。
「すげえなあ、おれたち、あそこに行くんだぜ!」
視線の先には赤い惑星、リガヤが浮かんでいた。彼らが暮らすザイオンの兄弟星。『船』を出すこの年、二つの惑星は最も近づくと言われており、今晩のリガヤは目をすがめれば細かい地形まで見えそうだ。迫力あるリガヤの姿にサーリーが見とれていると、いつの間にかアンシエーが隣に立っていた。手に薄いブランケットを持っている。
「サーリー、寒くない?」
「……ううん、全然」
サーリーはわざとぶっきらぼうに返したが、アンシエーは微笑んだ。サーリーを困惑させる、まごころのこぼれるような笑顔。
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