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アンシエーは二つ年上の十五歳で、サーリーも小さいころはもう一人の兄のように慕っていた。それが、いつからだろう。アンシエーが重い荷物を持ってくれたり、例の笑顔を向けてくるたび、意味もなく反発してしまうようになったのは。
草原に寝そべっているマローが声を上げた。
「リガヤ人は、洞窟に住んでいるからみんなナメクジみたいに白くてブヨブヨしてるって、ほんとかな?」
「そんなことねえよ。うちの爺ちゃんはリガヤの『花婿』だけど、フツーの人間だったからな!」
そう言うブルークは、みんなより少し色白なことを気にしている。言い合いになる前にシドが口を挟んだ。
「でも、面白いよな。おれたち、もとはみんな同じ場所に住んでたんだろ。なあ、アンシエー?」
話題を振られて、アンシエーはうなずいた。
「ああ。ぼくたちの先祖は、ザイオンやリガヤよりずっと大きな星に住んでいた。そこは祝福された土地で、人はみんな六十歳まで生きたらしい」
「そんなに長生きしてたら、ザイオンがパンクしちゃう!」
ひょうきんなギュイが声を上げ、みんな笑った。アンシエーは続けた。
「その地の祝福が失われると、先祖は新しい棲み家を探さなければならなかった。それがザイオンとリガヤなんだよ。二つの星に別れることになってしまったけど、ぼくらは残された『花婿の船』を使って五十年に一度、同胞を交換している。子孫の友好と、多様性を保つためにね」
「でも、なんで男の子だけなの?」サーリーは声を上げた。
「ずるいよ、あたしだって同胞なのに。リガヤに行きたいのに!」
少女に噛みつかれ、少年たちは気まずそうに顔を見合わせた。
「だって……学校で習っただろ。女の人は家族と暮らす方が幸福度は高いんだ。特に、子どもを産むときにはね」
「それに『船』はいつ遭難するかわからない。それで女の人が減ったら、次の世代が大変だもんな」
受け売りの知識で諭そうとする少年たちに、サーリーは頭を振って抗議した。
「違う! 違う……!」
子どもだの安全だの、理屈はわかる。大量のエネルギーを消費する『花婿の船』がそうそう飛ばせないこともわかっている。でも、気持ちが追いつかないのだ。だってリガヤの話をするとき、少年たちの目は新しい世界への憧れと期待で輝いているから。
「これだから、女の子はさあ」
誰かの呆れたような声に、サーリーは我慢できなくなって背を向けた。
「おい、サー!」
シドに呼ばれるのも無視して、闇雲に丘を駆け下る。
悔しい。みんな楽しそうで。あたしはこんなに怒っているのに。みんながいなくなったら、すごく寂しいのに。
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