花婿の船

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 数カ月後、少年たちは去って行き、空白のようなひと月が始まった。そのひと月の間に、発射場に集められた何百という少年たちは準備を整え、『花婿の船』に乗ってリガヤへ向かう。彼らと入れ替わりに、ザイオンには少しだけ色素の薄い花婿たちがやってくるのだ。  少年たちが行ってしまったことで、残された人びとはしばらく消沈していた。だが、暗い空気は長く続かなかった。『花婿』の到着を思ってそわそわする若い女性たちに、同じ理由でハラハラしている若い男性たち。リガヤの少年たちを歓迎しようという雰囲気が、少しずつ高まっていった。  その中で、サーリーはひとり不可解な気持ちを味わっていた。アンシエーが隣にいたころ、サーリーは彼の存在をそれほど意識していなかった。なのに今は、どの景色にもアンシエーがいるような気がするのだ。  サーリーは混乱し、ついに親友のテシアに打ち明けた。 「あたし、どうかしたみたい! アンシエーがこのまま帰って来なかったらどうしよう!」  テシアはサーリーの話を聞いて、悪いと思いながらも笑ってしまった。 「結局、あんたはのんびりし過ぎ、アンシエーはせっかち過ぎたのねえ」 「ねえテシア、一緒に考えてよ。アンシエーは戻ってくると思う?」  テシアはにっこりした。 「アンシエーが戻ってくると言ったなら、そうするんじゃない? 男子の中で一番賢いんだからね。リガヤで船を作っているって話も、本当だと思うよ。母さんから聞いたことあるもの」  それを聞いて、サーリーは安心した。テシアの母親は元老院の議員をしており、リガヤの情勢にも詳しかったからだ。  アンシエーは戻ってくる、それも新しい『船』に乗って! サーリーの心は弾んだ。それなら、あたしはもっと農業のことを勉強しておこう。だって、リガヤは植物資源に乏しい星だから。いつかリガヤに行ったとき、あたしの知識が地元の人の役に立つかもしれないじゃないの。  ううん、リガヤだけじゃない。『船』があれば、もっと外の世界にも飛び出していけるんだ。あたしたちは、きっとそうするだろう。そして、二人で新しい世界に種を撒こう。  あたしたち。あたしとアンシエー。その考えは、サーリーの心にしっくりとなじんでいた。かつて気まずさを覚えていたはずの感情を、今のサーリーは甘く温かい気持ちで受け入れられるようになっていた。  そうして、ザイオンが『花婿の船』を待つ間に、サーリーは十四歳になった。
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