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「大変残念な報告をしなければなりません。『花婿の船』のことです」
市民議事堂に集められた人々を前に、地区の元老院長は深刻な面持ちで切り出した。
「まず疑問が生じたのは、今月に入ってもリガヤからの『船』が観測されないことでした。これまでの記録では、そろそろ目視できるはずなのに。そこで『船』の遭難を疑い、リガヤの元老院へ連絡したのです」
リガヤの『船』が遭難した! 人々はどよめき、サーリーはテシアと顔を見合わせた。テシアの顔は青ざめている。自分もそうだろう。ああシド、それにアンシエー。ザイオンの『船』は無事だと良いけれど……。
だが、続く話は人々の想像を上回るものだった。
「リガヤ元老院からの返答は無かった。代わりに連絡をくれたのは、かつてリガヤに渡った『花婿』の一人でした。彼はすでに六十を超えていますが、故郷のため私たちに情報を提供してくれたのです。大変勇敢な行為でした。……彼は言いました。リガヤは『花婿の船』を送っていない。ザイオンの少年たちを盗んだのだ、と」
「まさか!」
悲鳴のような叫び声が上がった。ギュイのお母さんだ、サーリーはショックの中で思った。もしくは、ブルークの。
混乱の中、元老議員であるテシアの母親が立ち上がり、説明を続けた。
「情報提供者は、こうも言いました。リガヤは、新しい『船』を作っている。それは戦うための船――軍艦だと。リガヤは、ザイオンに攻め入るつもりなのです」
議事堂は、今度こそ激しい騒ぎに包まれた。喧騒の中で、ふらついたテシアがサーリーの二の腕につかまってきた。爪が痛いほど食い込んだが、サーリーはそれをほとんど感じなかった。
「あいつらは息子たちを人質にしたのか!」
父親の一人が叫ぶ。
「それよりずっと悪いことがある」
別の一人が言った。低い声にも関わらず、そのひと言は議事堂内によく響いた。
「リガヤの悪魔どもは、ザイオンの子どもを脅して武器を持たせるだろう。やつらは、息子たちにその親を殺させようとするだろう」
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