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僕は隣で前を向いたまま、彼女が話す時だけ横目に視線を送る。ただでさえ話しづらいことなのだろうと思うと、下手にプレッシャーを与えるような行動はしたくなかった。
松葉さんはジェットコースターが上がっていく時のような緊張した面持ちで、華奢な手元を見つめている。
「ずっと言わなきゃって思ってたんだけど…、それで安藤くんに嫌われたり引かれたりするのが怖くて、言えなくて…逃げてしまって…」
一目瞭然に力の入った指先が、缶を圧迫する。思わず僕も力んでしまって、中身が半分ほどに減った缶が手の中で硬直した。
「でも、あたし…やっぱり知ってほしい」
そう言って振り向いた彼女の瞳は、微かに揺れながら強い眼差しで僕を貫く。
「もし嫌われるとしても、ちゃんとあたしのことを知ってほしいの。もう隠し事はしたくない…安藤くんのことが好きだから」
咄嗟に息を飲んでしまうような真剣で熱意の宿った目に、僕は彼女の方へ体が向くよう座り直す。
「僕も知りたいです。松葉さんのこと…もっと知りたいです」
胸を突き破って飛び出しそうなくらい、心臓がドキドキと叫ぶ。頭が熱い。息が詰まる。
僕の言葉に少し目を丸くして、松葉さんは首を頷かせた。 彼女の揃えた膝がこちらを向く。
コーヒーの缶を胸に抱くように握って、彼女の口が動く。
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