今日の彼女と僕の今日

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「推しがね、亡くなる前に飲んでたのもブラックの缶コーヒーだったんだ。フィアンセとのデート中に、公園のベンチで。だけど、仕事の電話で呼び出されて、そのまま…殉職してしまうってキャラで…」 「…えっ?」  思わず漏れ出た声に、松葉さんはハッとした様子で僕に目を戻す。 「あっ、ごめんね、こんな話…湿っぽくなっちゃうよね」 「いや…」  慌てて話題を逸らす彼女に一言しか返せなかったのは、混乱が脳内に舞い戻ってきたからだった。  ブラックの缶コーヒー、フィアンセ、公園のベンチ、呼び出しの電話、殉職ーーー。  覚えのあるシーンに、モノクロの風景がフラッシュバックする。 「松葉さん」 「うん?」 「もし間違ってたら、すみません」  速い鼓動も戻ってくる。緊張感。そして、可能性に期待する高揚感。  きょとんと首を傾げる彼女に、僕は心の中で魔法の呪文を唱える。  〝Ready…Set…Go !〟 「もしかして、松葉さんの推しって…〝ハル〟ですか?〝ハロルド・ブラッド・ランフォード〟」  うっすら赤く色付いた目が、ゆっくりと見開かれる。 「えっ…安藤くん、知ってるの?ハリーのこと」 「もちろんです!〝エヌドリ〟は僕が人生で一番大好きな漫画ですから!」
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