【短編】あーちゃんの頃

２.あーちゃんのおやつ

　おばあちゃんがいなくなって、おとうさんがお家にいることが多くなった。

　おとうさんのお仕事は「パチンコ」なんだって。
カコねえちゃんが言ってた。

　おとうさんはおばあちゃんみたいにおいしいホットケーキを作ってくれない。

　おばあちゃんみたいにお部屋のおそうじもしない。

　おばあちゃんみたいにあーちゃんをお風呂に入れてくれない。

　おばあちゃんみたいに、あーちゃんに、お日様みたいに、ニコニコ笑ってくれない。

　おとうさんは、いっつも怒ってる。
　いっつもこわいお顔してる。

　あーちゃんが話しかけてても、テレビとか新聞を見たまんま、知らんぷり。

　お外で遊んでいると、近所のおばさんがあーちゃんを指差して「あそこのお宅はゴミ屋敷なんですって」と言ったの。

　ゴミやしき、ってなんだろう。

　お家の中は、ぎゅうぎゅうにゴミが集まって、ホコリでせきがゴホゴホでて、それでちっちゃなゴキブリとおっきなゴキブリがチョロチョロ走っていて………

　そんなお家の中であーちゃんはカコねえちゃんが学校から帰ってくるまでひとりで遊ぶ。

　お絵かきをしたり、こわれたレコードをなんどもなんどもきいたり。

　あーちゃんは、お絵かきがだいすき。

　新聞についているチラシのうらっかわの白いところに、動物の絵をたくさんかくんだ。

　うさぎさん、くまさん、わんちゃん。

　何枚も、何枚もかくんだ。

　でもね、何枚もかいているとお手手がつかれてくるんだ。