1976年夏 

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図書館を出ると、急に雨が降り出した。夕立ちだ。 ちょうどバスが近付いてくるのが見える。それに乗ろうと、龍彦はうしろの夕介を振り返った。 ショルダーバッグを掛けようと、もたついているその手を掴み、図書館の前の下り坂を、雨の中バスに向かって急いで走った。 ふたりが乗り込むと、バスはすぐ発車した。 人のいないバスの中、二人掛けの席に座り、龍彦は手をつないだままにしていた。 夕介が甘えるように、龍彦の肩に頭をのせてきた。 濡れた前髪から、滴がしたたり、龍彦のシャツに落ちる。 今なら、言っても夕介は受け止めてくれるだろう。 夕介の重みを肩に感じながら、その言葉を耳元で龍彦はささやいた。 「夕介、好きだ……」 夕介は頷き、つないだ手をぎゅっと握り返してきた。 バスの窓から外を見ると、雨は本降りになっていた。 乗客は二人だけだ。 龍彦はこのまま終点まで乗っていたいと思った……………
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