1976年春

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1976年春

はじめて夕介を見た時、龍彦はそこだけ時間が止まったような気がした。 周りの誰も目に入らなくなった。 ただ、夕介のきれいな顔だけが浮き上がって見えた。 ずっと、ずっと——こうして見ていたい、と思った。 1976年 4月 日野龍彦(ひのたつひこ)は、高校一年生になった。 入学してすぐ、廊下で一人の少年に会った。友人と立ち話をするその姿に、一瞬で惹き付けられた。 驚くほど整った顔立ちのその少年は、同じ一年の、野々宮夕介(ののみやゆうすけ)という名前だと、級友に教わった。 背丈は中位だが、姿勢がすごく良く、学生服が似合う。背筋がぴん、としている。黒い髪は毛先がわずかに癖があってはねている。その透き通るように白い肌が、特に人目を引いた。切れ長の涼しい目、そして唇は薄く、描いたような曲線で、うっすらと赤みを帯びていた。 彼は物静かな少年だった。 他の生徒たちのように騒いだり、大きな声を上げたりすることもない。仕草が大人びていた。 「1組の野々宮って、きれいな顔してるよな」 龍彦は、小、中学校とずっと夕介と一緒で、幼なじみという級友に、そう問いかけてみた。 内心、気持ち悪がられるだろうかと、ひやひやしながらだったが、そういう反応はなかった。 「そうだろう。野々宮ん家は、みんな美形でさ、近所でも有名なんだよ。お母さんもすごい美人だし、妹も可愛いんだ。あいつも子供の時からきれいな顔で目立ってたよ」 「へぇ、そうなのか」 なるほど。龍彦は納得した。 男の同級生すらもその際立った容姿には、一目置いているのだった。 龍彦の方は、良くも悪くも自分は平均的だと思っている。身長も外見も成績も。両親が公務員のごく平均的な家庭に育ったことも。 誰とでもすぐ仲良くなれる親しみやすさは、特技かも知れなかった。 ただ、ある平均的とは言えない部分については、まだ人には打ち明けられていない……  
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