1976年秋

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それから間もなく、学校の行事で部活が一斉に休みの日があった。 放課後、一緒に帰ろうと思い、龍彦が教室まで夕介を迎えに行くと、すでに姿がない。   龍彦は不安に襲われた。 どこに行ったのか不審に思い、自分の教室へ戻る時に、半地下の音楽室の方から、足早に階段を上がってくる上級生に気付いた。 水泳部の水野だ。 彼が出てきたのは、音楽室の隣の音楽準備室の入口からだった。 階段を上がり終えた水野と、龍彦は、8組の教室の前で、ちょうど鉢合わせする形になった。 彼はちょっと口元を歪め、龍彦の顔を軽く睨むようにすると、3年の校舎の方へ、逃げるように去って行った。 ……龍彦は、あの部屋に夕介がいる、と直感した。 そのまま階段を駆け下り、音楽準備室の扉に手を掛けた。 ……夕介は窓辺にいて、池の方を向いて立っていた。 「龍彦…」 物音にびくっと驚いたように、振り返る。 近付くと、夕介は外れた詰襟のホックを掛けようとしていた。でもうまく掛けられなくて苦心しているようだった。 いつもきちんと留めている学生服の襟のホックと、第一ボタンが外れていた。
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