1976年初夏

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ある日、夕介に誘われたことを思い出し、龍彦は剣道部の練習を見に行くことにした。 夕介と幼馴染の級友によれば、彼には剣道師範の伯父がいて、子供の頃からその道場で剣道を習っていたそうだ。  道理で姿勢がいい筈だ。 校舎の外れ、深い緑の林を背にして、体育館と、武道場は並んでいる。 武道場の一階を剣道部が、二階を柔道部と空手部が道場として使っていた。 剣道場の入口まで来ると、ちょうど剣道部員がひとかたまりになって、出てくるところだった。 その中に龍彦は、夕介の姿を認めた。 荒い稽古の後だったのか、道着が乱れていて、衿元も開いている。袴の脇が大きく割れて、夕介の白い太股が覗いた。 それを見た瞬間、龍彦の胸は妖しく騒いだ。その太股から続く、夕介の白い裸身を想像したのだった。 龍彦は、夕介に声を掛けるのを止めて、その場から急いで立ち去った。 家に帰ってからも、まだ見たことのない夕介の裸が頭から離れなかった。そして夕介をそんな風に見ている自分に気付き、胸が苦しくなった。 夕介のことを本当に好きだ──と、思った。
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