1976年夏 

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「ね、夏休みの課題、図書館で一緒にやらない?」 「学校の図書室?」 「ううん、市立図書館だよ。あそこならうちの生徒はあまり来ない」 「いいね、それ!一人でやるより絶対はかどるよ」 夕介の顔が、ぱっと明るくなり、すぐに龍彦に同意した。 二人だけの時間を共有できる── 夕介は、自分の事をどう思っているのだろう。今までの素振りからして、少しは好意を持ってくれているのじゃないか。その期待に、龍彦は夏休みを待ちわびた。 そして、夏休みに二人の仲は進展する……… 休暇に入ってすぐの午後、龍彦は市立図書館で夕介と落ち合った。 「夕介って数学が得意なんだ。凄いな、あとは何が好き?」 「物理とか、かな」 「やっぱり理数系に強いんだ! 尊敬するなぁ。数学教えてよ」 「いいよ。でも英語が苦手なんだ」 「じゃあ英語なら、ちょっとは僕が勝てるかな。」 夕介は理数科目に長けていて、クラスでも上位らしかった。英語が好きな龍彦と、それぞれ教え合うのは好都合だ。 図書館には、雑誌もかなりの種類が置いてあった。勉強の合間には二人で顔を突き合わせて、面白そうな雑誌のページを、夢中でめくった。 すぐそばに夕介の息遣いと体温が感じられる──龍彦はその薄い唇に触れてみたい衝動に駆られた。 自習室を出て、ロビーのベンチに並んで腰掛けると、帰りのバスの時間まで少し間があった。 自動販売機でジュースを買って渡してやると、夕介はまっすぐ龍彦の顔を見ながら、真剣な眼差しで言った。 「あのね、僕──龍彦が一番、話しやすいんだ」 「本当?それは──嬉しいな」 「クラスの奴らより、ずっと」 「うん」 「だから、龍彦には何でも話せる気がする」 「夕介、僕もだよ……」 何でも──夕介が何を言おうとしているのか、この時龍彦は察した。 多分人に言えない、同性に惹かれる自分自身のことも、お互いそれとわかっているのだ。自分達の気持ちが、同じ方向を向いていることも。 急に夕介が愛おしく思えた。
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