碧衣と碧斗

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家から少し離れた空き地で待機する警察車両に案内してもらった。 「碧衣、良かった無事で」 車の後部座席から慌てて飛び出してきたお姉ちゃんにぎゅっと抱き締められた。 「本当に私のお姉ちゃんなの?」 「正真正銘、本物の斎藤愛花です。碧斗くんが出ていったあと、誰も鍵を閉めなかったから手首を縛られていても隙を見て逃げることが出来たの。陽仁の彼女が勤務している病院は12月27日までは確かにN総合病院だったけど、1月8日からはM総合病院よ。それを陽仁が知らない訳がない」 「じゃあ、家のなかにいるお兄ちゃんは一体誰なの?本物のお兄ちゃんはどこにいるの?」 「本物の陽仁がどこにいるか言わなきゃダメ?」 お姉ちゃんが苦笑いを浮かべた。 「碧衣はうぶだからね。クリスマスと年越し、恋人同士家以外で、普通どこで過ごす?」 その一言でなんとなくだけど理解し、顔が真っ赤になった。 「取り込み中だからいちいち電話を掛けて寄越すなだって。親がとんでもない事件を起こしているというのに呑気なものよね」 「どういう意味?」 「まさか父さんがほとつぐ教の幹部だったとは。名前も経歴も、うだつのあがらない窓際社員って言っていたのも全部嘘だったの。父さんがそんな人間だったとは知らなかった。私たちすっかり騙されていたのよ」 碧斗くんのお母さんが殺された日、お母さんがお父さんを問い詰めていた。このお金はどうしたの?なぜ他人名義の通帳をこんなに持っているのと、めったには怒らないお母さんが怒っていた。それから両親はぎくしゃくしてほとんど会話を交わさなくなった。
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