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碧斗くんは私が年長のときに入園してきた。噛み癖があってきかんぼうで落ち着かない子。それが碧斗くんだった。毎日なにかしかやらかして、友達を泣かせて、先生に注意されていた。私も碧斗くんに指を噛まれたことがある。
碧斗くんには三歳年下の妹がいた。名前は確か飛香ちゃん。ママと妹と三人でいる。お父さんがいないって話していた。でも……。
十一月三日。
おもちパーティーと発表会の時だ。
お父さんがいないはずなのに。碧斗くんのお母さんのお腹が大きくて子供心なりに変だなって思った。
碧斗くんは斎藤碧斗くんのまま。苗字は変わらないのに、なぜか毎年のように碧斗くんのお母さんは子どもを産んでいた。
「シンママのほうが手当がもらえるし、働かなくても生活保護でお金がもらえる。結婚したら働かなきゃいけないでしょう。余計に税金払わないといけないでしょう。だって。頭にくるよね?」
「うちなんか食べ盛りなのが二人もいるから。生活費切り詰めてなんとか生活しているのよ。いいご身分よね」
保護者はみんな碧斗くんのお母さんのことを快く思っていなかった。授業参観や運動会。それにバザーや発表会にほとんど顔を出したことがなくて。碧斗くんは寂しそうに項垂れるといつも泣いていた。
四年生の三月二十日。事件が起きた。
「碧斗座れ。勉強出来ない」
授業中、落ち着いて座っていられない碧斗くん。先生が休みでプリント学習していた。終わらなかったから宿題だって言われていたからみんな必死だった。明日は春分の日。宿題なしの三連休のほうがおもいっきり遊べるもの。そりゃそうだ。
「どうしたの碧斗くん?」
気付いたら私の前に立っていて、プリントが机の上から消えていた。
「やだ。やめて」
あと一問解答したら終わりなのに。碧斗くんは無表情でプリントをじっと見ると、にやりと笑ってぶりぶりと破いてしまった。
「嘘。なんで……私、碧斗くんになにかした?」
「いっつも楽しそうで。ホントにムカつく」
吐き捨てるとクラスから出て行こうとした。
「碧斗、まずは碧衣ちゃんに謝れ」
「先生が来るまで通さない」
男子が通せん坊して行かせないようして小競り合いの喧嘩がはじまった。
それからの記憶が曖昧でよく覚えていないけど。気付いた時にはずきずき痛む頭を手で押さえながらストレッチャーで救急車に乗せられていた。
三連休の翌日は終業式。碧斗くんは学校には来なかった。
五年生になればまた会えるかな。碧斗くんと話しがしたかった。それなのに……。
「嘘。碧斗くんがいない。なんで………」
新学期がはじまる日。飛香ちゃんは二年生のクラスにいるのに、学校中、どこを探しても碧斗くんだけいなかった。
嫌なことをされても、我慢すれば良かったんだ。
私が怪我をしなければ碧斗くんはいなくなることはなかった。
「碧斗くん言ってたもの。家にいても居場所がない。あの人、すぐ叩くんだ。学校にいる時が一番楽しい。だって温かいご飯が食べれるし、叩かれることも、怒られることもないって。私のせいで碧斗くんから楽しい場所を奪ってしまった。ずっと、ずっと、後悔していた」
「碧衣、聞いて欲しいことがあるの」
お姉ちゃんが隣に腰を下ろした。
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