碧衣と碧斗

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「碧衣!」お姉ちゃんの声が聞こえたような気がして立ち止まった。戻ろうとした私に、 「碧衣、碧斗を助けて」 今度は智ちゃんの声が聞こえてきた。私は目の前にあった自転車に飛び乗った。 そうだ。思い出した。ばあちゃんはある新興宗教を興した。孫の飛香の体には神様が宿っている。だから大事にされ、可愛がれるのは当然。ぼくは生まれて来なければよかった。だっていらない子だから。 碧斗くんがいなくなる前、二学期の終業式のときだ。 今にも雨が降りそうなどんよりとした鈍色の空を見上げて家に帰りたくない。碧斗くんは泣いていた。 一旦立ち止まり、スマホをポケットから取り出した。 斎藤。新興宗教。洗脳。マインドコントロール。カルト。生き神様。サイコパス。 頭に浮かんできたワードを片っ端から検索した。 「……ほとつぐ様……」 教祖の女性は憑依巫女で神様や霊と交信が出来る。未来予知が出来ると評判になり多くの信者を集めたみたいだったけど、何年か前に娘を脱会させようとした信者の家族とトラブルになり、それが社会を揺るがす大事件へと発展した。 直接病院に行っても勝ち目はない。それならと、ダメもとで被害者救済にあたっているという巽弁護士の家を目指すことにした。スマホで住所を調べたらここからは十五分くらいの距離だとわかった。いきなり押し掛けても迷惑顔をされて、門前払いだろう。でもなにもしないよりはまし。みんなを助けたい。一心不乱にペダルをこいだ。
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