3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
涼は走り続けた。青も、それを追い続けた。
階段を降り、廊下を走る。すれ違った生徒たちが何事かと振り向いた。
中庭に出たところで、涼は座り込んだ。肩を上下させてゼーハー言っている。
青も近くに座りんで息を整えた。涼は足が速いくせに持久力はないらしい。
「……あの」
青が話しかけようとすると、涼は小動物が威嚇するかのような顔で振り向いた。
「確かにっ……勝手に調べたのは悪いと思うけど……はあ……あの紙が飛んできたのは俺のせいじゃないから!」
青は困惑してしまった。どうして自分の曲を知っているのか問いただそうと思ったのに、なぜか相手が牙をむいてくる。
「あの、とりあえず呼吸整えたら?」
「……」
涼は、何度か深呼吸を繰り返した。なんだか意外だと思った。涼のこんな姿を今まで見たことがなかった。
涼の様子をぼんやりと見ているうちに、青は大事なことに気がついた。はっとして涼に近づく。彼は少し体を引いた。
「もしかして、高評価押してくれてたのって霧橋?」
「高評価?」
涼は、ぽかんとした顔をしたあと、ああ、と納得いったように頷いた。
「うん。いい曲だと思ったから高評価ボタン押したと思う」
衝撃。そのあとにじわじわと感謝と興奮が押し寄せてきた。
「ありがとう!」
思わず涼の両手を握ってしまう。涼は明らかに戸惑っているようだった。
「……怒ってないの?」
「怒る?」
そういえば、勝手に調べたっていうのはどういうことだ。問いただそうとした時、予鈴がなった。
「行かなきゃ」
そう言うと涼は立ち上がり、さっさと教室に向かってしまった。
青は、混乱の真っただ中で、涼の後を追った。
最初のコメントを投稿しよう!