草原の音

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 授業中、涼の方をちらちらと盗み見たが、彼は頑なにこちらを見ようとはしなかった。  授業がすべて終わり、帰る準備をしていると、一瞬目を離したすきに涼の姿は消えていた。 (あいつ……!)  ダッシュで下駄箱に向かうと、そそくさと帰ろうとする涼の姿が目に入った。 「霧橋!」  涼は、ぎょっとした顔をして走り出そうとしたが、その手首をがっちりと掴んだ。 「ちょっと待てって。なんで逃げるんだよ」 「だって……」  そういえば、さっき怒ってないかと聞いてきた。彼は、気まずそうに斜め下を見ている。 「怒ってないから」 「ほんと?」  涼が顔を上げて目線を真っ直ぐ合わせてきた。瞳の曇りなさに、少したじろいだ。 「うん。俺の曲、気に入ってくれたからチャラ」 「ああ……」  涼は、表情の読めない顔で頷いた。とりあえず納得してくれたらしい。 「あのさ、駅まで一緒に行かない?方向同じだろ」  登校時に、何度か彼の姿を見かけたことがあった。 「いいけど」  了承を得たので、二人で肩を並べて歩き出す。ほとんど話したことがない彼と一緒に下校するのは不思議な感覚だった。 「でさ、どうやって俺のチャンネル見つけたの?」 「え、その話?」 「怒ってないんだからいいじゃん。教えてよ」  涼は少し戸惑った顔をしたが、ぽつりと口を開いた。 「藤屋が飛ばした紙に書いてあった、blue grayっていう名前と曲のタイトルを検索したら出てきた」  あの曲のタイトルは「星空とヒヨドリ」だ。確かにあまりない組み合わせなので、検索にかけたら出てくる可能性が高い。しかも曲の宣伝のために、SNSでも公開していた。 「なんで検索したの?」 「なんでって、ただ気になっただけ。出てくると思わなかった。そうしたら出てきたし、聴いてみたら藤屋の声だったから」 「で、気に入ってくれたの?」 「うん」  口ずさむくらい気に入ってくれたんだ?と聞こうかと思ったが、嫌な顔をされそうな気がしてやめておいた。  でも、これだけは言っておこうと思った。 「あのさ」 「うん」 「俺の曲聴いてくれて、どうも」  ありがとう、と言い損ねてそっけない言い方になってしまった。 「こちらこそ」  涼は、相変わらず淡々とした調子で答えた。
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