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霊能者
「どうもはじめまして私ミステリージャーナルの氷川と言います」
長身で長髪の黒いコートの男が意外と人懐こい顔で握手を求めてきた。
「ど、どうも山吹です」
いくらか物怖じしながらもしっかりと応えた青年は白いポロシャツにジーンズでどこにでもいそうな雰囲気だったが唯一目だけが何かを警戒しているようだった。
待ち合わせの喫茶店は昼間だというのに薄暗くて他に客のいないところをみると繁盛はしてない様だったが、そういうところをわざわざ選んで人と遭う約束をしているのはある種の雰囲気作りで、相手が話しやすくなるようにという氷川の気配りでもあった。
「えーと、で、ですね。早速本題で申し訳ないんですけどねぇ、霊能力者でいらっしゃるんですよね?」
「え?えぇ、まぁ、はぃ……」
「先程から周りを気にしてらっしゃるのは、まさかもう見えてるので?」
「え?あ、いえいえ」
山吹はふるふると顔を降って更に手で違う違うと否定した。
「いえ、なんとなく雰囲気のあるお店だなぁと思ったものでつい目が泳いでただけです」
「はぁ、なるほど」
「それに、僕は見えません」
「え?」
「あ、期待はずれでした?」
「え、いえ、いや、でもさっき霊能力者だと……」
「あぁ、はい言いました、言いましたけど、ちょっと違うんです」
「どうちがうんでしょう?」
「僕は食べたものの気持ちがわかるんです」
「はぁ?食べる?まさか!人を?」
氷川は思ってた霊能力と随分と違ったのでもう少しで腰を浮かしそうになった。
それをみて山吹はまた首と手を降った。
「違います違います!動物ですよ、勿論」
「あー動物ですか、なるほど」
「なんか、思ってたのとは違ったようですみません」
「い、いえいえ、そんなことは……ないです」
なんとも歯切れの悪い返答に山吹はペコリと頭を下げた。
「いやいや、本当に……そう、逆に面白いですよ。ま、こう言ってはなんですけどね、うちのコアな読者層にはハマりそうです」
「そうですか?」
「ええもちろん、で、どんな感じで聞こえるんですか?」
「え?いえ、声が聞こえるとかではなくて、なんとなく生きてた頃のイメージみたいなのが流れ込んでくるみたいな……」
「ほうほう」
「その動物が生きて走ったり食べたりしてた時のイメージとか、だから所謂霊能力者とは違いますよね、なんでしょう?霊感応者みたいな」
「なるほど、霊感応者か、面白い」
「お、面白いですか?」
「面白いですよ、なかなか動物の霊専門なんていないですからね」
「まぁ、そうですね。ていうか僕に言わせて貰えば人の霊しか見えないってのもおかしな話だと思うんですけどね、人間より動物の方が遥かに多いはずなのに」
「たしかに、それは……でも動物は喋れないからじゃ」
「喋れなくたって気持ちはありますよ?」
「あ、そうですね、すみません」
「い、いえ。なんか僕もすみません動物の味方みたいな発言しちゃいましたけど、本当に味方なら食べませんよね」
そういって山吹は自嘲気味に微笑った。
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