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「私はいずれ、君の事も、私である事も忘れ、守ろうとした王国の民を殺し尽くすだろう」
鋭い爪で地面を引っ掻きながら、彼は呻くように哀しみを吐き出す。
「この呪いを、君に伝染したくはない。全てを忘れて、立ち去ってくれ」
アタシを愛してくれる彼なら、そう言うと思った台詞だ。アタシは半眼になって彼の元へ歩み寄ると。
「ばーか」
と、軽いデコピン一発を喰らわせてやった。
「あんた、アタシを誰だと思ってるの? 王国一の魔術師様よ。昔のどこぞの誰かが失敗した禁忌を、解けないと思うの?」
何度もアタシを見つめてくれた碧い瞳が、驚きを宿して、アタシの得意満面を映し出す。
「元に戻ったら、一緒に帰ろう。で、黙ってアタシから離れた詫びは、たーっぷりしてもらうからね?」
竜退治の英雄は、幸せにならないといけない。
絶対に、悲劇のバッドエンドなんかで終わらせないんだから。
アタシの胸に宿るのは、絶望の黒い炎なんかじゃない。
決意と、未来への希望に、明々と燃え上がる、白い炎だった。
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