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風が止んで、おそるおそる目を開けると
私たちは暗い洞窟にいた。
………は…?町は?駅は?
お姉とふたり、ゆっくり立ち上がり周囲を見回すと、奥に光が見えた
顔を見合せお互いに頷いて、私たちは寄り添いながらそちらに向かって歩くことにした
正確には私がお姉にしがみつきながら、だ
光に近付くと影が揺らめいて、火の灯りだとわかった。あの岩の向こう、人が…居るみたい?
岩影から覗き込んで、私たちは言葉を無くした
そこに居るのは人ではなかった
光の正体は焚き火だけど、その火を焚いているのは
「くま…」
しまった!思わず言葉が出た
いやだってしょうがないじゃん!ドでかいヒグマが胡座かいて火を焚いてるってどんな状況?!
しかも火に鍋をかけてる?!着ぐるみ?中に人が入ってる?イヤイヤイヤイヤこんな剥製みたいにリアルな着ぐるみ無いやろ!
私の声に気付いて、ヒグマの鋭い眼光がギロリとこちらに向けられた
やっぱり着ぐるみじゃない!
「なんだ…?人間か?」
しゃべった!野太い声でしゃべった!
にににに逃げなきゃ、逃げなきゃ!でも足が動かない、声ももう出ない、どうしよう?どうすれば?
のそり、とヒグマが動いた
座っていても私の身長ぐらいあった巨体は、立ち上がると見上げるほど大きくて…
あ、私…死ぬんだ
その確実な未来だけが、事実として静かに確信できた
カキフライ…食べたかったな。彼ピとケンカしたまんまだったな…せめてもの救いは、お姉が一緒に居てくれる事か…
そんな想いがぐるぐる回っている私の頭に、不意にお姉の声が聞こえた
「右利き…ね」
その声で我に返った私は、今までずっとしがみついてたお姉の顔を見上げた。ヒグマを、しっかり真正面から見据えている
「すずな、ここを動かないでね」
お姉はヒグマから目を離さず、私の両肩に手を置いて、身体から離した
「おおおお姉…まさか」
声にならない声が喉をついて出た
お姉の手からは、その意思の強さが伝わってくる
マジかこの人?!
「哺乳類の急所って、だいたい同じのはず…」
声に迷いが…ない
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