すもももいぶん

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今朝も鏡の中の私は可愛いぞ…と、そこは問題ない。 んでも気分は最悪!朝からも〜最悪。 昨日うつ伏せで寝落ちたから、前髪に寝癖がっ!しかも直らない?!ヤダヤダヤダヤダ信じらんないっ!! ナシやろ、自慢の前髪は一番のこだわりポイントなんにコレはナシやろ! 中学の制服に着替えてごはん食べて、鏡の前に立つまで全っ然気付かなかった、お母さんもお姉も教えてくれればいいのにもー。 いつも一緒に出掛けるお姉は、さっさと支度してもう玄関だ 「すずな〜、先行くよ〜」 玄関から声が届いた、ヤバい置いてかれる。 大事な前髪か、お姉と駅までの大切な時間か、私は選び様のない二択を迫られている!何この状況?なんでこーなった?! あーもー何もかも昨夜のアイツとの電話のせいだ。 「待って待ってーすぐ行くー」 …今日はヘアピンの日だ…だっさ。 「はああああぁぁぁ…」 めっちゃため息出るし 二択でお姉を選んだのは正解だった。 私は6歳上のももこお姉が大好き。いっつも何でも相談に乗ってくれるし勉強もファッションも教えてくれる。 さすがのデザイン専門校ファッションデザイン科。 登校途中の駅まで毎日一緒、いつもいろんな話をしてテンション上げてくのが私の日課。 てか今日のこのテンションでぼっち登校とかありえんわ。 「そろそろ1年よね、彼とケンカなんて初めてじゃない?」 ももこお姉の柔らかい声が耳に優しい。 「来週の月曜日でね…1年だよ」 中学3年生の初め、今の彼ピと付き合い初めてもう半年。 自分で言うのもアレだけど、私って男子ウケは良いほうだと思う…。 しかたないよね、可愛いし。 そんな私に塩対応で妙〜に絡んでくる男子が居て、なんか可愛いかな〜とか思って話ししてたら中々気が合うじゃん? まんま付き合うことになって、なんだかんだでもう1年、このまま続いてほしいと思ってたんだけど…。 私はベタベタしない彼ピの塩対応が心地よかったんに、だんだん甘々になってきちゃって、最近ちょっとキツくなってきたかも…毎晩電話とか無理なんだけど。 これ、ヤバいやつだよねぇ。 歩きながら、お姉が応えてくれる。 「蛙化現象かぁ、すずなはいいなぁ、私も彼氏ほしー」 いつもは今日のコーデとか色々教えてもらう時間なんだけど、今日は人生相談の日だわ…。 お姉は今日もキレイだなぁ…ウエストほっそ。 プリーツスカートが大人っぽいのにどこか可愛くてすごく良き。 今は可愛い私も6年後にはこんなカンジに…へへ…ふへへ。 は、良いとして、そっか〜これが「蛙化現象」かぁ……ってめっちゃヤバいじゃん!終焉に向かっとるやん!それは嫌だ。 「すずなはえらいね、自分達のことしっかり考えてて」 えらい?私が?ずっと下向いてたけど思わずお姉の顔を見た。 「なんとなーくで生きてる私とは大違いね」 …優しい……前髪よりお姉を選んでほんと良かった。 駅が近くなって、遮断機の大きな音と電車の警笛が聞こえてきた。人も増えて朝の雑踏が騒がしく耳に残る。 もっと話ししてたいな。お姉の乗る電車までまだ時間あるし、私ももう少しなら大丈夫かな。 そんな小さな幸せが無惨に崩壊する現実を、私は思い出してしまった…。 「あっ!!」 ヤバい!信じられないヤバい!!思わず叫び声が出た。 「なになに?!どしたのすずな?」 お姉も足を止めて私を見る。 「おべんと.........忘れた」 …終わった。 なんでこんな…ああ… 前髪は決まらないし、彼ピとはケンカ…それに、おべんと……ああ…なんで お姉のおかげでせっかく…。泣けてきた、マジ泣けてきたコレ 「…ぇ〜ん…も〜……なんでぇ〜」 目の前が真っ暗、頭の中はまっ白.........私の人生…詰んだ。 泣き崩れる私に、お姉があわてて声をかける。 「しかたないよ、おべんとは晩ごはんにしよ。あ、お金もってる?これで何か買って…」 お姉がお金を財布から出して私の手に握らせてくれた。 このお方は聖母?溢れる優しさが嬉しい…でもねでもね、今日のおべんとは…私の大好物のカキフライだったんよ…。 泣きながらお金とお姉の手を握って、思わず言葉が漏れ出した。 「うえぇ〜…やだも〜、もーやだ死にたい~」 異変はその瞬間に 突然起きた。 唐突に、世界から音が消えた。 私達ふたりは突然の静寂に包み込まれた。 耳を突く程の静けさ…自分の呼吸以外何も聞こえない静寂が辺り一面に広がる。 何が起きたのか、 見えているけど信じられない。 世界の全てが止まっている。 道行く人も、車も、街路樹から落ちる枝葉も、電車も駅に半分入って止まっている。 「なに…これ?」 お姉の手を頼りに、おそるおそる立ち上がって辺りを見渡した。 え?無理…ムリムリムリムリ!なにがどーなってんの?みんな何してんの?なんで止まってんの? 理解が追いつかない、怖い! 怖い怖い怖い怖い! 「すずな、落ち着いて」 その声で、無くしかけてた正気を取り戻した。 お姉は動いてる、手をつないでくれてる。 「私から離れないで」 声が出ない、頷くだけで精一杯だ。 私はお姉に抱きついて、ただ震えることしかできない。 お姉の鼓動が高まっているのがわかる、私の心臓なんかさっきから破裂寸前だ。 ふと、頬に風を感じた。 風が、音も立てずに吹いてきて、どこからか黒い霧を運んできた。 通りから、駅舎から、辺り一面に霧が広がる黒い霧。 ヤバい逃げなきゃ!でもどこに?足が動かない。 霧はみるみるうちに広がって、あっという間に私たちを飲み込んだ。 お姉が振り返って私を守る様に強く抱きしめた、意外とちっちゃい。 風がどんどん強くなって、まるで嵐みたいに私達を取り囲み髪が激しく乱れる。 何なん?何これ?いったいぜんたいなんなのよ?!わけわかんない!!!
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