私は化物です

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 昼休みを終えて教室に戻ったさとみ達を、クラスメイトは心配と好奇の眼差しで見つめた。二人の赤く腫れた瞳には、乾ききらない涙が滲んでいた。それも束の間、五限目に突然の日本史の小テストが始まり、皆は絶望のどん底に落とされたのだ。  そして帰りのホームルーム。予告なしの小テストという卑怯技をかました担任は、我々の恨めしい視線など気にも留めずに、連絡事項を淡々と伝える。 「え〜最後に、皆さん進路希望調査書は提出したかな? 親御さんのサインもちゃんと戴くように。締め切り厳守でお願いします。それじゃあ、解散!」 「だる~。一花と二葉はもう提出した?」 「私は大学進学で希望出したよ。二葉は?」 「私は…… まだ決まってない」 「そっか~。あたしも早く決めないとなあ」  机に突っ伏す三咲をよそに、私は二葉の頭上を見つめた。 【私、渡辺修蔵の娘なの】  渡辺修蔵とはこの町の市長である。その娘とあれば、町一番の大学への進学は最低ライン、もしかしたら都会の大学も視野に入れているかもしれない。けれど私は知っている、二葉は演技の道に進みたいのだ。彼女の表情を見る限り、彼は娘の望む道を後押ししてはいないようだ。 「じゃあ、私演劇部に顔出すから」 「あたしはカラオケ~、一花も来る?」 「ううん、今日はまっすぐ帰るよ」 「そっか! じゃあまた明日ね~ん」 「うん、ばいばい」  二人に別れを告げて、私は家路につくことにした。
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