花嫁は舟に乗って

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花嫁は舟に乗って

「花嫁入り舟だってさ。早く早く見なきゃ」 「どこから来るの」 「ええとね。ずいぶん下流からくるらしいよ……あ?みえた!」 「うわ!綺麗な花嫁さん!」 小野川のほとりで子供たちが手を振る中、白無垢の花嫁と花婿はまぶしそうに目を細めて川を進んでいた。 「菊子、まだ着かないのか」 「やっと半分ですね」 「そんなにかかるのか」 すっかり呆れた清磨を船頭をしている勇作はたしなめた。 「若。これは若が決めた順路ですよ。みんなに披露したいと申されたので」 「そんなはずはない、なあ。菊子」 「フフフ。でも楽しいですよ」 清磨は菊子を嫁にして神崎の家を出ると言い出した。この思いを知った号蔵は隠居し、責任を取るかのようにすべての権限を放棄し清磨に託した。 上正の醤油屋は菊子が去ったとたんに売り上げが激減した。しかし店を存続させたいという菊子の願いで現在は勇作が上正の経営に携わっていた。 源次夫婦は会計に厳しい勇作の元、必死に働いていた。この家の牡丹は婿を取る前に花嫁修業が必要と油定の嫁に言われ、現在は油定の下働きをしていた。 笹山は転勤でこの地を去ったが、神崎商社との取引が評価され、現在は東京本社で勤務していた。 上正の加工場の娘達は、次々と結婚が決まった。キイも漁師の寛治と結婚し、騒動を起こすマメも相手が決まっていたが、マメの素行を知った夫の家族の反対で破談となっていた。 清磨の幼馴染のイトは、玉の輿狙いの見合いで他の男性と結婚が決まっていた。 「お。あれは誰だ?」 「魚屋さんです!うわ。みんないますね」 菊子が取り立てをした魚屋や料亭の女将が河岸から手を振ってくれた。 「ありがとうございます!ありがとう……」 手を振りながら嬉しさで涙を流す菊子を見て清磨は、口を尖らせた。 「なぜ泣くのだ。俺と結婚するがそんなに嫌なのか」 「そうではありません。みんなが祝福してくれるので、つい」 「菊子」 彼女を抱き寄せた清磨は舟の上で彼女の頬に口づけをした。これには見学者から黄色い悲鳴がこぼれた。 「はっはは。菊子は俺の嫁だ」 「もう、清磨さんは」 「……お二人とも掴まってください。速度を上げますので」 「おおいいぞ。菊子は俺に捕まれ」 「はい」 笑顔が咲いた二人は、まぶしい小野川を小舟で進んだ。秋の柳は秋の風にゆれていた。河岸の白菊の花は二人を優しくいつまでも見つめていた。 終
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