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「キミが締めたら、彼らはオダブツだよ」
「そうね。で、どこまで戻れる? 他のポイントは?」
一転して真面目なグレーテルの期待には応えたいけど、僕は両手でバツを作った。
「安定跳躍はイータまで。後は全滅」
「たった七〇〇光年? しかも後は全滅って、盗難確実ね」
グレーテルが、あからさまに落胆する。
人類活動圏の最果てに決死の覚悟で辿り着いた途端、帰り道が消失では、誰でも落ち込む。僕だって、ここまで一度に安定機を失うのは想定外だった。
でも、ここで腐っても事態は変わらない。
「何とかなるよ。『大通り』に触れずに跳べば良いんだし」
「ハンスの腕は信頼してる。でも──」
その時、視界の端で、計測装置のモニタ表示が更新された。
「ちょっと待った!」
「ハンス?」
僕はグレーテルを制し、動きのあったモニタに飛びついた。彼女への返事も後回しで、必死に表示を追う。
「これは起死回生のチャンスだ、相棒」
興奮する僕に、グレーテルが首を傾げる。
「何が?」
「ここから巡航速度で約三〇時間の距離にある小惑星帯から、重金属成分を検出した」
相棒の榛色の瞳が輝いた。
「種類は」
「特定は無理。重金属は確実」
「目と鼻の先の距離ね、燃料は?」
「大丈夫。資金源さえ手に入れば、辺境管制局に行けば良いんだし」
「残燃料からして、その小惑星帯で資金源を確保して、帰りは組合を頼る方が、このまま手ぶらで母船まで安定機無しの跳躍するよりマシな計算?」
「話が早くて助かる」
「了解」
グレーテルの顔に気合が漲る。半分はヤケ、半分は冒険心だろう。
「行きましょ。小惑星帯までは私が操縦するわ」
「ありがとう。助かるよ」
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