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 航行中、グレーテルは渾名(あだな)の愚痴を延々と語った。操縦桿を握ると愚痴る彼女の癖は、今日も健在だ。 「──ったく、どいつもこいつも!」 「みんなは僕らを『チーム︰ヘンゼルとグレーテル』って」 「あたし達は、大昔の童話の兄妹じゃない!」 「そりゃそうだけど」  でも僕自身は、ハンスちゃん(ヘンゼル)も、グレーテルとのセット呼びも、実は気に入っている。あ、彼女には内緒だ。 「名前が良くないのかな」  不意に聞こえたグレーテルの呟きに、僕はギョッとなる。 「イヤだ! 改名はしない!」 「何よ、藪から棒に」  僕の勢いにグレーテルが鼻白み、この話は終わりになった。  予定通り、僕らは小惑星帯(アステロイド・ベルト)に到着した。ここからは僕が操縦し、グレーテルが小惑星を品定めする。 「これが良いわ」  モニタに映し出されたのは、金属と岩石の斑模様の洋梨型小惑星。長軸は約一〇〇km。 「見つけるの上手いよね」 「当然」  グレーテルが、ツンと顎を上げる。取り澄ましたつもりだろうけど、蜂蜜色に囲まれた得意げな笑みを、僕は見逃さなかった。  視線に気付いたグレーテルが、ジロリと僕を睨む。 「何よ」 「ん? 凄いなと」  笑顔で応じた僕に、グレーテルがたちまち照れ隠しの渋面を作る。 「お世辞は良いから、さっさと着陸する」 「了解」  宇宙船を安全に、目標天体に下ろす。安定度を確認したグレーテルが、彼女の趣味で搭載された自作分析装置を操作する。 「表層走査(スキャン)開始──鉄系金属が豊富ね」  含有量や成分次第では、別の小惑星に移る必要がある。しかし、それには燃料を使う。頭の中で電卓をはじくグレーテルが思案顔になり── 「アルスリウムを検出!」  (にわ)かに目の色を変え、モニタにかじりつく。僕も思わず腰を浮かせた。
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