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アルスリウムは、数百年前に発見され、超光速航行に革新を齎した超希少物質。地殻中濃度一ppbの天体を発見すれば末代まで遊んで暮らせる、夢の鉱物だ。
「濃度は?」
「良くてサブppt。でも、存在は確か。ここで採掘よ!」
「了解、アンカー射出」
僕が船を天体に固定する横で、グレーテルが軽く舌なめずりした。モニタに映るお宝の影に、完全に目が眩んでいる。
「さーて、中はどうなって──あれ?」
表層から深部へと分析を進めたグレーテルが、眉を顰める。
「どうした?」
「内部が見えない。磁場が変なのかも。ま、いっか。表層だけ削ろう」
「採掘ロボ、先に出す?」
「うん──って、嘘でしょ!」
今度は悲鳴。今日のグレーテルは忙しい。
何事かと別モニタで確認すると、フル充電で待機中のはずの採掘ロボが、バッテリ切れで動かない。
「……おぅ」
これには、僕も呻いた。
跳躍の弊害の一つだ。理由は未だ不明ながら、特殊な遮蔽材で保護しないバッテリは、跳躍中に放電する。採掘ロボには頭から遮蔽シートが被せてあるけど、航行中にシートがずれたのか、肝心のバッテリ部分は剥き出しだった。
「あーもう! 仕方ない、自分で取ってくる」
叫ぶなり、グレーテルがパッと席を立つ。その蜂蜜色の尾に、僕も続いた。
「僕も行くよ」
「留守番は?」
片眉を上げたグレーテルの横で、僕はお構いなしに準備を進める。
「ロボの補助なしで単独船外活動は危険。船の遠隔機能は維持するし、母船とは連絡取れないから、留守番無しで大丈夫」
「その状況が問題でしょ、──」
グレーテルは嘆息交じりに何事かを呟くと、後は無言でEVAの準備を始めた。
彼女は知らない。過保護──そう聞こえた呟きに、僕がEVA用ヘルメットの中でにんまりと笑ったことを。
過保護で上等。だって僕は、ヘンゼルなんだから。
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