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 僕らは小惑星に出た。  頭上の恒星ヴァルの光で、地表は明るい。見渡す限り、起伏の少ない荒野だ。 「アルスリウム含有鉱物、取り放題!」  グレーテルの声が、喜色に弾む。姿勢制御装置を使う彼女の小柄な身体も、弾むように採集へ向かう。あの様子だと、多分帰り道のことは頭にない。  それは僕も半分同じ。未開拓地で、好きなだけ鉱物採集ができる。これに興奮しない資源採掘者はいないだろう。  僕は、グレーテルと少し距離を取った地点で、目に付いた表面の一部から、拳大のかけらを適当に削り取った。断面は黒く、所々輝いている。 「何の金属かな」 「同定は後! 今は資金源確保が先!」  すかさず指摘するグレーテルを見ると、彼女の横で浮かぶ採集箱は既に満杯だった。 「こりゃ凄い」 「ロボがいなくて、細かい成分や品位は分かんないからね。採れるだけ採る!」 「確かに」  納得した僕は、グレーテルの採集箱を宇宙船に自動帰還させる。その間にも、グレーテルは僕の箱に採集品を入れ始めた。僕も、持っていたかけらを箱に入れ、次の採集に取り掛かる。 「やる気になった?」 「ロボがいない分、頑張らないと」    その時だった。 「──閾値を超過──確保──」  スピーカーから、耳慣れない声がした。  混線? こんな無人の地で──? 「ハンス、今のは?」  グレーテルも声を聞いたようだ。僕らは顔を見合わせ。  その瞬間。  僕らの足の下で、地表が音もなく消失した。 「え?!」 「わっ?」  突如広がった底なしの穴。状況を理解するよりも速く、黒い虚空の奥から高速で伸びた二本の金属ロープが、僕らの足首にそれぞれ巻き付く。それはさらに、出てきた時と同じスピードで、間髪入れずに僕らを穴の中へ引き込んだ。 「きゃあっ!」 「グレーテルっ!」  伸ばした手が、空を掻く。  常闇の中を、僕らは落ちた。
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