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動くヘドロ──奥から現れた音の正体は、高さ三m弱の山型を成す薄膜と、その下を絶えず蠢き、変則的な光を放つ高粘度液体の異形だった。
グレーテルが、独創的な名で表現する。
「何よ、この電飾入り巨大融解ナメクジは!」
赤く輝く球体が二つ、ヘドロの中を無軌道に動き、僕の前で止まった。まるで一対の目だ。
「ぉ起きた、とuうzzぞぉく」
異形が喋った。全身で発したような、歪んだ低音。間延びした、でもそれは紛れもなく、僕らの使う言語だ。
「何よ気持ち悪い! あたし達はアルスリウムを採りに来ただけよ!」
「盗賊──閾値、そうか」
僕の中で、異形の言葉がさっきの音声とリンクする。グレーテルは、そうはいかなかったらしい。
「何勝手に一人で納得してんの!」
「岩石を一定量以上持ち出す相手を捕まえるんだ。アルスリウムを見つけたら、探査者は必ず岩石を採るから」
「そんな事どこにも書いてなかった!」
柳眉険しく叫ぶグレーテルと僕との会話を理解したのか、異形の表面が波打った。
「ああrr主殿は言っtttた。ii石を盗るuw悪い奴ぅは捕mまえrrろ」
赤い目玉の片方がヘドロ内を移動し、今度はグレーテルの正面で止まる。
「おmm前はあrrるじ殿ぉとnn同じニiiオイ。aa主殿、偉大なる──」
異形が震える。音が割れて、最後が聞き取れない。
二つの赤い球体の中間でヘドロが波打ち、異形の表面に穴が空く。
そこから出てきたモノに、僕は目を疑った。
迎撃用金属製フレキシブルアームだ。内側から開いた先端が、四本のマニュピレータになる。何本も出てきたアームが、僕とグレーテル各々の檻に纏わり付く。
異形はともかく、この兵器の事は良く知っていた。
「グレーテル駄目だ! 攻撃するな!」
「えー」
アームへの先制攻撃を企む榛色が、不平とともに臨戦態勢を解く。その途端、一本のアームが檻の電子錠を開け、他のアームがグレーテルに殺到した。
「何すんの!」
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