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「お、また飛んでる」
青年は空を見上げながらため息を吐く、飽き飽きしていた。
毎日毎日あても無く、壊れた体で歩き続ける事が。
歩き続けるうちに、小さな集落にたどり着いた。火に焼かれ、焼け野原になった場所でも人が集まれば集落ができる、ここもその一つで大きさはあれどここ以外にもたくさんの集落がある。
「よお、兄ちゃん。見ねえ顔だな?」
「ああ、ついさっきここに来たばかりなんだ」
彼に野菜を売っている屋台の主人が声をかけてきた、顔は土で少しばかり薄汚れているが活気に満ち溢れた顔をしている。
もしかしたら彼にも何か悲惨な過去があるのかもしれない、だがそれを気にしたところで意味はない。
「あんた運がいいぜ。たった今畑で取れたばっかのもんだ、新鮮だろ?」
店先に並んだ野菜は新鮮、と言っていいのだろうか。
一昔前の人間が見たら腰を抜かすだろう、薄気味悪く思うほどにねじれたネギ、ニンジンは表面に波打つ模様が入りくの字にねじ曲がっている。
「確かに……けど遠慮させてもらう」
「ありゃ? 兄ちゃんもしかして『藁』か?」
「ちげーよ。大体そんな奴中々いないだろ」
「がははは! まあなぁ……いたらそいつは気の毒だな」
店主の豪快な笑い声が辺りに響く、『藁』とは火の『残り火』に耐性の無い人間の事を指している。天の火は落ちた場所に『残り火』を残す、これは土を焼き作物を焦がす。焦げた作物を人が摂取し続ければやがて衰弱死してしまうのだ。藁とはその耐性がない人間を指す一種の侮辱を込めた言葉だ。
人間はすごいもので、今や九割の人間が『残り火』に対して体制があると言われている。これも一種の慣れだ、ちなみに藁は希少価値の高い珍品という事で人身売買の際にはかなりの高値が付くという。
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