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三
『まったく、お前には呆れたものだな』
憮然としながらも、威厳のある口調でその鳥は告げた。
「……ごめんなさい」
何が何だか分からないけど、千鳥は思わず謝ってしまう。
『チドリは悪くないよ! だって、僕がここまで案内したんだから』
そう言うのはパカパカ、真っ白なオーストラリアガマグチヨタカの子供だ。
「お前のことだ。…………」
そう言ったもう一羽の鳥、巨大なシマフクロウは、千鳥には発音できない音を発する。多分さっき聞いた、パカパカの本当の名前と同じ音だと千鳥は思った。
「この国に、ニンゲンは入ってきてはならないのだ、本来は。それをお前と来たら、ニンゲンを警戒しないばかりか、ここまで連れてきてしまうのだからな。いくら子供で、外の世界を知らないとしても、それにも限度がある」
そんなことをシマフクロウは、パカパカに向かって言っていた。その間に千鳥は、この場所をじっくり観察してみることにした。
建物のように木が絡まり合って、ドーム状の屋根を作っている場所だった。
この空間の柱になっている木は銀灰色の樹皮をしていて、ほっそりとした枝が綺麗なカーブを描き、天井の方で枝を絡め合っている。もしここにガラス窓が嵌っていたら、温室のように見えていたかもしれない。でもガラスも、金属もなくて、ここにあるのは植物と石だけだ。
それから、柱に絡まるのはトケイソウ。時計のような不思議な形の蕊を持つ、紫色と白の花。なかでも一際大きなのは、シマフクロウの後ろにあって、その文字盤をこっちに向けている大輪の花だった。千鳥が両手を広げたぐらいの大きさはあるだろうか。
そこから、ボーン、ボーンと、それから、中央の花の周りで咲く、人の顔ぐらいの大きさのトケイソウたちからも、チックタックと、時を刻む音がしていた。
「あの、すみません」
千鳥はシマフクロウに向かって聞いてみた。
『どうかしたのかね』
「なんでこの花、動いてるんですか?」
『これは、この国の時間を測る、特別なトケイソウだ。この国では、時間の進み方が外の世界とは違っている。ゆっくりゆっくりと時間が進み、天体の運行に左右されない時間の中で鳥たちが時を待っている。今は夜だから、ほとんどの鳥たちは眠っているがね』
この国、それから外の世界。
「なんなんですか、この場所は? 元の世界と、どう違うんですか?」
『教えてはならないのだ、ニンゲンには。ニンゲンがこの国に自由に入ってくるようになったら、鳥たちの眠りも、平穏も奪われてしまう。本来ならば、この国に足を踏み入れたニンゲンは、速やかに八つ裂きにしなければならない』
「え、ええ!」
『例外がある。その鍵だ』
そう言ってシマフクロウは翼で、千鳥が首から下げていた銀色の鍵を指し示した。
『その月光の鍵を持っているニンゲンは攻撃してはならず、客人として丁重に迎え入れねばならない。そういう掟だ。そうして、この国のどこかで満月の鍵穴を見つければ、外の世界に帰ることができる』
「じゃあこの鍵、大事なものだったんだ。その『満月の鍵穴』、どこにあるか教えてくれる?」
チドリは銀色の鍵を握りしめながら、シマフクロウに尋ねてみる。固くて冷たい鍵の感触が、千鳥の手に食い込んでくる。
「客人自ら探し出さねばならないのだ、満月の鍵穴は」
それから、シマフクロウは空中へと飛び上がった。
「しょうがない。お前、このニンゲンを案内しなさい。私は、パトロールに行ってくる。夜の時間は夜の鳥が守らねばならない、そういう掟だからな」
その言葉を最後に、シマフクロウは音もなく飛び去ってしまった。
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