1/1
前へ
/6ページ
次へ

 千鳥とパカパカは、いろんなところを歩き回って、それからいろんな鳥に尋ねてみた。  ピンクフラミンゴが片足だけで立って眠っていて、その間を銀色の漣が駆け抜けていく、浅い湿地の縁に立って。  大きな孔雀が、まるで不思議な果実のように、その極彩色の尾羽を垂れ下がらせている、うねった松の枝の傍らで。  空色や黄色、桃色のインコたちが鈴なりになって、眠りながらおしゃべりしている、大きな木の下で。 「『満月の鍵穴』について知らない?」  鳥たちから帰ってくる答えはいつも同じだった。 「さあね、知らないわ」 「知らんな。また余が眠りを妨げれば、今度はただでは置かんぞ」 「シラナイ」「シラナイ」「シラナイ」 「本当に、満月の鍵穴なんてあるのかな」  千鳥はパカパカに聞いてみる。だけど、答えたのはパカパカじゃなかった。 『そもそも、月なんてこの国では出たことがないからね』  振り返る千鳥に、パカパカはぴょんと飛び上がって、また千鳥の頭に着地した。  薄明かりの中、大きな灰色の影が立っていた。  深緑色の蓮の池の真ん中、葉っぱと葉っぱの間に立っていたのは、これまた大きな嘴と、鋭い目の水鳥だ。  ハシビロコウ。この鳥は千鳥は知っていた。テレビで何度も見たことがあったし、図鑑で生態を見たこともある、有名な鳥類だ。 「あなたは、何をしてるの?」 『見ての通り、漁をしてるのさ』  そう言いながらハシビロコウは下を向いて、それからじっとしている。 「何もしていないように見えるけど」 『君たちが大きな声で喋っているから、獲物が逃げてしまったよ。やれやれ、今夜は不漁のようだ』  それから、ハシビロコウは大きな翼を広げて、ゆっくりと羽ばたきを見せる。 「ちょっと待って! 月なんて出たことないって、一体どういう意味?」 『聞いての通りさ。だって、これだけ周りが明るいからね。月明かりなんて、必要ないだろう?』 「答えになっていない気がするけどなあ」  そんな千鳥の言葉は聞かずに、ハシビロコウは飛んでいってしまった。 『チドリは、月を見たことがあるの?』  そう聞くのはパカパカだ。 「もちろん、あるよ」 『いいなあ』  そう言ってパカパカは、ベンチのような形をした平たい石へと降りる。千鳥もそこに座ることにした。 「パカパカは、月を見たことがないの? 夜行性の鳥なのに」 『僕は大きくなっても体が白いから、木の幹のふりができないんだって。だから、鳥の世界の日が来ても、僕はこの国から出られないんだ』  パカパカは真っ白な羽毛だけど、その羽毛の感じはひよこみたいにふわふわというより、毛並みが揃ってきて一方向に流れていた。まだそんなに大きくはないけど、大人の羽毛に生え変わっているみたいだった。そして、目は白兎のように赤い。 「なに? 鳥の世界の日って」  さっき出てきた不思議な言葉について、千鳥はパカパカに聞いてみる。 「鳥の世界の日には、僕らの王様が起き上がって、世界はまた鳥のものになるんだって!」  そう言ってパカパカは胸を張る。というか、胸の羽毛を逆立てて膨らませて見せた感じだった。 「王様ってなに?」 「石の広場に王様がいるよ。見に行ってみる?」 「……うん、行ってみる」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加