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五
ストーンヘンジに似ている、千鳥はそう思った。と言っても、ストーンヘンジの実物を千鳥は見たことがなくて、図鑑でしか知らないのだけれど。
円柱上の大きな石が、広場をぐるりと、円形に取り囲んでいる。数は十二体。まるで、時計の文字盤のように。
そして、その真ん中に、何かが寝ていた。
倒れていると言った方がいいのかもしれない。
それは、黒っぽい骨だった。
ダチョウのような姿をしていて、だけど、ダチョウよりもずっと大きい。それに、頭には大きなとさかのような板がついていて、それはダチョウとは違っているように見える。成人男性二人分ほどの背丈で、だけど、そこにもし肉がついていたら、人間数人分よりももっと大きいと感じたかもしれない。
今は肉はない、骨だから。
そのたくましい胸骨や、翼の骨は完全な形で保たれていて、でもぺしゃんこになって広場に落ちていた。
「なに、これ」
千鳥は思わず、そう呟く。
『鳥の王様だよ!』
パカパカは元気よく答えるのだ。
「でも、骨じゃん。骨っていうか、化石じゃない?」
『アンズー。古代メソポタミアの神、エンリルに反逆した巨鳥の神格だ。お前たちニンゲンの神話ではな』
そう答えたのはパカパカではなかった。音もなく飛んできたシマフクロウが、石柱に止まり、その上から下にいる千鳥に向かって語りかける。
『最初ニンゲンたちは、『地獄から来たニワトリ』と名付けようとしたらしい。無礼な話だ、まったく。自分たちに下った、飛ぶこともできなければ走ることすらおぼつかない、最も弱き鳥と、このような美しい鳥の王を一緒くたにするとは』
「……ごめんなさい」
千鳥自身には謝らなければならないことはなかったけど、それでも人間の代表として謝った方がいいような気がして、千鳥は俯いて、視線を鳥の王の方に移す。
鳥の王、アンズーの体はぺちゃんこになっていたけど、羽根は残っていて、綺麗な極彩色の羽根だった。羽根の付け根は青から緑っぽい色、そこから先端にかけては赤紫色の光沢のある羽が輝いていて、尻尾はオレンジ色だった。
『かつては地上も、空も、この地球は鳥のものだった。空から星が落ちてきて、鳥の支配権は奪われた。だが半分だけだ。ニンゲンは自分たちこそ地球の支配者などと自惚れているが、その重く弱々しい体では、地を駆けることも、水に潜ることも、空を飛ぶこともできない。地球が再び鳥のものになるその日まで、我らは天体のもたらす運命から自由なこの王国で眠り、力を蓄える。そして、王が復活するその日には、我らは再び、この国を出て、広い世界に羽ばたくのだ』
そう、厳かにシマフクロウは、千鳥に向かって告げた。人間を弱いものと言うその言葉に、少しだけ千鳥は文句を言わなければならない気持ちになった。
「でも……でも!」
『どうかしたのかね』
「この鳥の王様だって、ダチョウみたいな形してるし、それにこんなに大きいじゃない! この格好じゃ、空なんて飛べないよ!」
『……試してみるかね?』
そんな声が千鳥の耳に届く。そう言ったのは、シマフクロウでも、それから、パカパカでもなかった。
まるで金属の反響音のような、トンネルの中から聞こえてくるような、生き物じゃないみたいな声。
大きな黒い影が、千鳥の頭の上に落ちる。
骨が、起き上がっていた。鳥の王、アンズーの骨だ。
今はもう骨じゃなくて、影のような肉を帯びて、その周りにキラキラした羽根を纏っている。
千鳥は気が付く。周りの石柱に。石柱じゃない、全部それは石になった鳥、いや、恐竜たちだった。
今や石の恐竜たちが目を開き、千鳥の方を見ている。
そして、鳥の王の目。その大きな目で、千鳥を覗き込んでいる。
まるで満月のような金色の、大きな目。
その、鍵穴のような瞳孔。
「満月の、鍵穴」
千鳥は呟く。
首から下げていた銀の鍵を握りしめ、それから手に取る。
今や視界一杯に広がっていたその金の満月、その中心の鍵穴に向けて、千鳥は銀の鍵を差し込んだ。
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