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「千鳥、起きなさい。そろそろ、駅に着くわよ」  そんなお母さんの声がした。  千鳥は目を開けた。  明るい電車の中だった。今は昼間で、白い日差しが窓から差し込んでいた。  四人がけのボックス席の、斜め向かいの席にはお母さんがいた。 それから、失くしたと思っていたリュックサックも、帽子もあった。  そうだ、おじいちゃんの家に向かっていて、電車に乗っていたんだった。  電車の中で眠ってしまって、夢を見ただけだったんだろうか?  さっきまで手の中にあった銀の鍵の固い感触を思い出して、千鳥は手を開いてみた。  そこには何もない。ただ、銀色のペンで書かれた鍵の絵と、金色のペンで書かれた月の絵があるだけだ。  こんな絵を手のひらに落書きしたから、あんな夢を見てしまったんだろうか。でもこんな落書きをした覚えは千鳥にはないし、残っているインクの不思議な銀色と金色も、千鳥には覚えのないものだった。  月光の鍵、満月の鍵穴。  電車の揺れは次第にゆっくりになり、一定間隔で並んだ電信柱の影が飛び去る速さもゆっくりになっていく。窓の外に映るのは、のんびりした町の昼下がり。  あれは夢だったんだろうか。  千鳥には、まだあの、月のない夜の国で、花たちが揺れていて、その陰から鳥たちが、こちらの人間の世界を見ているような気がしていたのだった。 (了)
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