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連絡先を美園ちゃんと交換してから、挨拶程度の会話のラリーをしたが
それ以降は連絡をしたり、向こうがして来たり…と言う事は特になかった
けれど…
物件の写真を撮り終わり、駐車場に車を停め、いつもの喫茶店でコーヒーでも飲んで、一服してから店舗に戻ろう、と思ったところで、何となく…
葉月:今日は美園ちゃんお店にいるの?
なんて、連絡をしてみたんだ
別に連絡を取る必要なんてなかった
勝手に行って、勝手にコーヒーを飲むだけ
以前まで、ずっとそうやって来た
でも
美園ちゃんがいたら…いいな
なんて思って、連絡をしたんだ
美園:すみません
今日はお休みなんです
汗マークの絵文字と、謝っているような人の絵文字が、文と一緒に添えられていた
なんだ…
文章を眺め、少し落胆した
葉月:そっか
会えると思ったけど、残念!
サクッと文章を打って、素早くスーツのポケットに携帯を仕舞おうとしたところで、手元が振動する
美園:今日、夜の8時とか9時くらいからなら、少し時間取れると思うんだけど、何処か一緒に飲みに行きますか?
えっ…
「葉月さん!」
新宿西口の駅前で、手を振りながら現れた相手
ロングヘアの髪を靡かせ
透けたような生地のシャツを着て、膝上のスカートからは生足が覗く
いつもエプロン姿で、髪も縛っていたから、その姿のイメージしかなかったが…
なんとなく目線を合わせずらくなり、相手の首元を見る
「お疲れ様
お店、そこの百貨店の、レストラン街の中にあるから、行こうか」
「はい」
エレベーターで上階に行き、和風な雰囲気のレストランの中に入り、テラス席と言うのか…屋上庭園に案内される
「わあ、すごい綺麗…」
美園ちゃんはそう言って、西口のビル群を眺めていた
そこには新宿の夜景が広がっている
ビールをお互い注文して、乾杯をした
「ビアガーデンとか、久しぶりだなあ
私の地元にある大通公園って所で、毎年夏にビアガやるんですけど、そこで飲んだ以来振りかも…」
「へえ
地元そこなんだね
俺行った事ないから行ってみたいな」
「えー行ったことないんですか?珍しい
行ったらいいじゃないですか!」
「うーん…中々時間がねえ…
美園ちゃんは地元帰ってるの?」
「あー…、帰ってないですね
専門卒業して、就職で上京してから……帰ってないな…」
「そうなんだ」
帰らないの?
と、言いかけて、口をつぐんだ
人には色々事情がある
野暮な事は聞くものじゃない
「へえー
専門って何の専門?」
話題を切り替えた
「製菓です
ケーキとか作る学校」
「おー、パティシエってやつだ
すごいね!」
「いやあ…全然
レストランの仕事きつすぎて辞めちゃいましたし…すごくはないですよ…」
と、美園ちゃんが言ったところで、焼き台がセットされた白いテーブルに、肉が運ばれて来た
セットコースの中の目玉である、骨付きラム肉を鉄板で焼く
これ…見栄えいいけど、骨付いてるから焼き加減とか…いまいちわからんなあ…
と、何となく念入りに肉を焼いていく
もー、いいだろ、と美味しそうな色合いの肉を、自分と美園ちゃんの皿にトングで置いた
「ありがとうございます
わー…懐かしい、ラム肉」
さっきメニュー表を見た時、骨付きラム肉を見た美園ちゃんが、地元ではジンギスカンと言う、ラム肉を鉄板で焼く料理が有名だと教えてくれた
「地元ではスーパーでも普通にラム肉売ってたけど、東京のスーパーでは…見かけなかったから」
へえ…
頂きます、と骨を持ちながら、肉を頬張った美園ちゃんが
「美味しい
ああ、そうそう、この味だ」
と言った笑顔に、満たされる気持ち
喜んでくれて…よかった
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