28人が本棚に入れています
本棚に追加
午後、美園ちゃん家に、借りた車で向かった
「今日は、ありがとうございます」
「いいよ、乗って」
昼下がりの山手通り
美園ちゃんのペットの、埋葬に付き合う事にして、近場のホームセンターに向かう
二人きりのドライブだったけど、デート、なんて雰囲気はなくて…車の中は、静寂に包まれていた
美園ちゃんは窓の外をぼんやりと眺めている
何を考えているのかはわからない…
電話の時と変わらず、ローテンションで…沈んだまま
「今日…晴れてよかったね
まあ…ちょっと暑いくらいだけど…」
と言って、俺は車のエアコンの温度を少し下げた
「そう、ですね
今日は快晴…ですね
いい日に…亡くなったよね
お互い仕事も休みで…ペットの…埋葬する時間が…ゆっくり取れて…
気を利かしてくれたのかな…」
窓から行き交う車を眺める、美園ちゃんの斜め後姿
「ペットが亡くなった時…
すごくすごく…悲しかったけど
同時に
少しだけ
ほんの少しだけ
安堵した自分がいたんだ…」
「え…?」
「もう
病気で…苦しまなくて済むねって…」
震えた声で
俯いた横顔
ああ…
本当に今日は
いい天気だ
ずっと、空を見上げていたくなるくらい…
ホームセンターに着くと、店の入り口には、早速ガーデニングコーナーが展開されている
鉢が沢山置かれている場所に向かい、深さのある鉢を探す
「これは…どうかな?ここの中では深さが一番ありそう…」
美園ちゃんはプラスチックのプランターを触っていた
「プラスチックはね…安くて軽量でいいんだけど…
壊れやすいから、陶器とか、素焼きとかの鉢の方がいいんだって」
「そうなんだ」
ぼんやりと
色々なプランターを眺めては、そっと手で触れる
と言う動作を繰り返す美園ちゃん
でも…
それはプランターを探している感じではなく
何処か…上の空で
「美園ちゃん」
そんな美園ちゃんの傍に寄り、声を掛ける
「はい…?」
「鉢の中に植える花、選んであげようよ」
「あ…そうですね」
抑揚のない声で、美園ちゃんは鉢コーナーから、花が売られているコーナーへと、のろのろと歩いていった
遠ざかっていく背中を横目に見ながら、俺は、深さもある目ぼしい鉢を見つけ、次は、鉢に入れる土
調べた情報によれば、土は腐葉土、と呼ばれるものと、赤玉土と呼ばれるものを交互に入れていくと良いという事だった
この鉢に…何リットル入るかわからないけど…腐葉土は二袋くらいあればいいかな?
「葉月さん」
赤玉土を選んでいる時、いつの間にか俺の傍に寄って来ていた美園ちゃん
「どうしたの?」
「折角、鉢に植える花なら、シンボルツリーみたいな…しっかりしたもの植えたほうがいいかな?
あのオリーブの木とかどうですかね?」
と言って、オリーブらしい木を指さした美園ちゃん
「そう言う木もね…いいんだけどね…
木は大きくなって根を張るから、埋めたペットを傷つけちゃうんだって
だから、プランターに植える花は、一年草と呼ばれる花を植えてあげるのがいいみたいだよ」
「へえ…そうなんだ
わかりました」
土を選び終え、花を選んでいる美園ちゃんの元へ向かった
「いい花、見つけたかい?」
美園ちゃんの背中に声を掛ける
「うん…
これなんか、どうかな?」
美園ちゃんが指さした先には、”ブルーサルビア”と描かれた花
「後は、これとか…」
「アメリカンブルー…
青色好きなの?」
「うん
飼ってたハムスター…
ブルーサファイアって言う品種だから…」
ああ、なるほど…
それで、”ブルー”ね
「いいと、思う
後一個くらい花を選んだら、鉢のサイズ的に丁度いいかもね」
「後一個かあ…」
暫し、俺と美園ちゃんは目ぼしい花を見つける為に、ぐるぐるとガーデニングコーナーを一緒に回った
「あ…
金魚草とか、千日紅とかは…どうかな?
なんだか夏っぽくて、これからの季節によくない?」
美園ちゃんはお店の入り口にあった、ガーデニングショップ的に、今推している商品を見て、語尾を上げるように言った
最初のコメントを投稿しよう!