恋の病に堕ちようか

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 報酬を貰えたのは、思っていたよりも早かった。なんと三日後だ。  神崎さんは意気揚々と僕のいる教室までやってきて、大量のキャンディが詰まった袋を差し出した。 「ありがとう、槇くん!」 「あ、ああ……どういたしまして」  この神崎さんと言う人は、口数が少なくて大人しい、良く言えば神秘的、違う言い方ならとっつきにくい雰囲気だった。それがどうしたことか、もの凄くはつらつとして、浮かれている。  こんなに目を輝かせているところを見た奴がいるだろうか。  そう考えて、ピタリと思考を止めた。いた、一人だけ。 「彼氏とうまくいってるんだ?」 「うん、佐藤くん!」  佐藤とは確か、隣のクラスの奴だ。野球部だったか。  聞いてもないのに名前を叫んだ上、神崎さんは僕の正面の席に座って熱く語り出した。 「一昨日の土曜にね、駅前に遊びに行ったの。ゲームセンターでこれ、取ってくれた!」  そう言って、スマホ画面を見せてくれた。大きなクマさんのぬいぐるみの写真が表示されている。他にもと言って、スマホ画面を次々スライドしていく。 「これ、一緒に食べたラーメン。シェアしたの」 「良かったね」 「日曜はね、映画見たの! 他にも見たいのがあるって言ったら、また行こうって!」 「ああ、うん」  この光景は、とてもよく目にする。付き合いたてのカップルが報告に来てくれた時の眩いばかりの様子。  ああ、好きなんだなって、いつもぼんやり思う光景だ。 「あいつのこと、好きなんだ?」 「うん、たぶん」  神崎さんはもじもじしながら頷いた。これもまた、皆と同じような反応だ。何度も見てきたからこそ、わかる。 「良かったね」 「うん、ありがとう。あのね、最近ずっと楽しい!」 「楽しい?」 「お互いに好きでいると、同じことでも楽しさが全然違うって思って。映画でも買い物でも、何でも。二人でやること全部が楽しい! 全部、槇くんのおかげ! ありがとう」 「ど、どういたしまして」  そう言うのがやっとだった。  彼女の笑う顔があまりに眩しくて、思わず目を逸らせた。そして気付いた。  彼女が驚くほど純粋で、まっすぐな人だということに。僕の作った薬一つで、ここまで気持ちが染まってしまうほどに、無垢な人だったんだと。
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