恋の病に堕ちようか

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 それから1年以上が過ぎただろうか。  高校を卒業して、僕は製菓の専門学校に、神崎さんは佐藤と同じ地元の大学に進学した。卒業してからはまったく会っていない。  僕は勉強を兼ねて親戚の開いたパティスリーでバイトをして忙しいし、わざわざ連絡をとるほどの仲でもなかったし。  将来を見据えて勉強して、バイトに励んでいれば、『昔の知人』なんて忘れる。そう思っていたが、どうしてか彼女のことだけは、ふとした瞬間に思い出す。 ――今頃、幸せなんだろうか。  僕があげた惚れ薬は効果がずっと続くわけじゃない。ただきっかけを与えたに過ぎない。どうせ三年もすれば冷めるカップルが多いのだからと思って改良してこなかったわけだけど、今となっては不安になる  あの薬の効果が切れると、彼女はどうなるんだろうか。  別れるだろうか。また申し訳ないとか思うのだろうか。仲が拗れたりしないだろうか。  頭の片隅でそんなことを思っていた。すると、不思議な縁があった。僕の働く店に、顔見知りが訪れたのだった。 「……槇?」 「佐藤……久しぶり」  そんなことを言うほど仲良くもなかったけど。接客の一環として言った。佐藤の隣には見たことない女性が寄り添っていたから、余計に。 「元気?」 「ああ……」  佐藤は視線を逸らせた。気まずいんだろう。彼が神崎さんと付き合っていたことを知っている人物に会ったから。  だが僕は、安心していた。 (そうか、別れたんだ)  無事に効果は切れたらしい。佐藤とは気まずいだろうけど、そのうち気にならなくなる。 「何にする? 店員割りしてやるよ」  ほんの少し機嫌良くそう言うと、佐藤はなんだか暗い面持ちになった。そして元野球部とは思えないほどか細い声で呟いた。 「いや、いい……」 「そう?」 「あの、さ……その代わりに、ちょっと時間貰えないか?」 「……へ?」  そう言った佐藤の顔は、まるで怯えた子供のようだった。
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